10年後、銀行員、タクシー運転手、警備員などはAIやロボットに取って代わられていると言われているが、農家はどうだろうか。この先、作業の自動化が進んでも、千変万化の自然の中で作物を育てることや消費者とコミュニケーションを図ること、高度な職人技が必要なこともあり、まだまだ人の仕事は多そうだ。
ただ、職業として農家を選ぶ人は少ないわけで、未来が安泰なわけではない。道が続くとしてもそれを太くするためにはさらなる進化が必要だ。今回お訪ねしたのは24歳でファームの代表を務める若き生産者。課題の解決を図り、新しい時代に対応するためライスセンターを新設し、その中でサタケのサクセスシリーズが地域農業を明日に繋げる役割を担っていた。
地域高齢化に対応しファーム設立
長良川と木曽川に挟まれた岐阜県羽島市で米80ha、大麦10ha、ブロッコリー5haを手がけているのが深耕ファームだ。代表は山田和也さん(24歳)。「19歳で就農し父からファームを任されました。農業は選ぶ人が少ない仕事ですが、誰もやらないのなら、自分がやろうと思って始めました」。
深耕ファームの母体は同地域で自動車工場の搬送設備や治具の製造を行っているヤマダ製作所。和也さんの両親が経営し、同ファームはそこの農業事業部として展開している。元々、農業は行っていなかったが、地域の高齢化が進行し、担い手が土地をあずかりきれないという状況となり、同製作所でも委託していた農地が戻され、それをきっかけとして自ら農業に携わることになり、2014年に深耕ファームが設立された。
栽培の主力となっているのはハツシモ(50ha)。大粒晩生種の良食味米で、岐阜県の奨励品種であり、県内で多くの作付けが行われている。初霜の頃まで栽培できることが名前の由来で、高温障害を受けにくい。同ファームでは8俵ほどの反収があり、消費者、実需者の評価も高く、販売は個人や飲食店、介護施設に約8割出荷している。無農薬・無化学肥料の有機JAS認証米も1haほどで生産し、高付加価値米として百貨店で販売されている。
ライスセンター新設で短期間作業に対応
この規模なら、通常、複数の品種で作期の分散を図るところだが、地域特有の事情がある。「6月1日から10日までしか水が来ません。用水路、排水路が兼用で、限られた期間しか水の供給がなく、その間に代かきと田植えをしなければなりません」。結果、食用米は晩生種のハツシモが中心となり、収穫時期も10月10日から約20日間で収穫する。さらにこの地では農地と宅地の混在割合が高いことも制約になっている。農振地域なのだが、宅地化が進み、圃場の区画も小さく、圃場枚数は380枚に及ぶ。作業に際しては音や埃、匂いに配慮する必要がある。その中で地域農業の担い手として大規模農業を実践するため、知恵と工夫をこらし、様々な取り組みを行っている。
まずは限られた期間で作付けをするため、乾田直播(20ha)を実践。また直進アシストなどの自動運転機能を持つ農機も積極的に導入。排水できない状況での通水は深水になりやすく、その中で、作業精度を維持し、労力を軽減するために貢献している。収穫においても集中的で短期間での作業が必要となる。刈り取り適期を逃せば、大粒品種のため「胴割れの危険がより高まり、品質低下に繋がります」。しかもその間に地域農家の個別乾燥にも対応していかねばならず、そこで能力増強が必要となりライスセンターの新設が決断された。
「非常に満足しています。ユーザー目線に立ってくれた機械だ」
今年が1年目となり、設備された主な機器は、乾燥機で100石2台、72石2台、28石3台、汎用乾燥機1台、6インチの籾摺機2台、3.5t/hの光選別機2台。それらで選別・籾摺りを2ライン構成している。主軸となる100石乾燥機、籾摺機、光選別機はサタケのSAXESシリーズ。導入に際しては様々な条件を考慮しながら広く検討が行われ、収穫時期は毎日50〜60t/hの受け入れが可能なこと、またこの地域は、過去長良川が幾度も氾濫し、その対策として2階部分に乾燥機、光選別機を設置することなどが条件となった。その中で「以前からサタケさんを使っていて、設備の相談にも乗ってもらい、信頼していました。また100石乾燥機のSAXES Vは全高が8mを切るサイズで、従来の乾燥機より低く、2階部分に収まり、選択の決め手になりました」。
まずはファーストシーズンが終わり、「作業が昨年より10日早く終わりました」。まだ余力があり、今後の展開が期待されている。個別機器では、乾燥機で掃除がしやすく、個別乾燥に対応し、ワイド昇降機で作業が効率的になったと指摘。「燃料消費も少ないのではないでしょうか。夜間静音モードは良い機能だと思います」。籾摺機に関しては、自動エアー噴射などの残留清掃機能を評価。光選別機は「歩留まりが良くなったと思います。50俵も余裕でこなしますね。有機JAS米ではカメムシ被害などもしっかり除去し、商品価値を高めてくれます」。全体的には「非常に満足しています。耐久性にも期待しています。ユーザー目線に立ってくれた機械だと思います」との感想。新しいライスセンターが収穫時期の課題に対して立ち向かう力となっている。
Point:プロの期待に応えるため開発されたサクセスシリーズ。耐久性を向上させ、清掃を容易にし、新機能で精度、効率性を高め現場ニーズに応える。
ここが一押し:100石なのに全高7435㎜。高さを抑え、設置性向上!
地域から必要とされる存在に
今後の展開は、「積極的な規模拡大を進めようという気持ちはありません。これからは営農の中身を充実させていきます」。生産力、販売力を高め人材力の向上を図り、経営の高度化を進めていくことになるようだ。新しいライスセンターには真新しい会議室があり、シャワーが完備され、非常に綺麗に保たれていて、新しい農業の形がその仕事場から見えるような気がした。その中で、地域農業や景観を守りたいという強い気持ちがあり、「地域から必要とされる存在になり続けたいと思っています」。その役割を果たすための選択がそこにあった。