スマートで野菜をつくろう!ハードなレンコン栽培をスマート農機がサポートする明日の産地の景色 取材先:徳島県鳴門市 仲須農園

アグリソリューション

  農業のスマート化が進行している。後継者不足による高齢化の進展や、新型コロナによって外国人の働き手が一時的とはいえ大きく減少したことで、新しい農業を模索する動きが強く推された形だ。『人手をかけずに農業を続けるには』、『経験の浅い働き手を短時間でベテラン並みにするには』、『無駄を省いて収益をあげるには』、それらの課題解決にスマート農機が重要な役割を果たしている。

  まずは先行して水稲栽培の領域で普及が進んでいるが、現況、多くの人手を必要とし、作業時間が長く、作業負荷が高いのは野菜・果樹作の方で、この分野での実装が強く望まれている。またスマート化は経営を高度化することや後継者を得るきっかけにもなり、農業持続にとっては大きな頼りだ。導入コストなどの問題もあるが、まずはスマートが現場をどう変えるのか。レンコン栽培の生産者にその試みを聞いた

多くの手作業が必要な重労働のレンコン栽培

塩害をきっかけに粘土質土壌でレンコン栽培が普及

 “蓮は泥より出でて泥に染まらず”という言葉がある。お釈迦様が仰ったそうで、困難や悲しみといった泥こそが養分となり、人はいつか人生において清らかな大輪の花を咲かせるという意味合い。泥中の身には励みの言葉。農業においても泥は障害であり恩恵でもあって、まさに蓮の下に実りをつけるレンコン栽培においては、泥と如何にうまく付き合っていくかが鍵になる。

 今回お伺いした徳島県鳴門市は、“なると金時”の栽培で有名だが、もう一つ全国3位の生産量となる農産物があって、それがレンコンだ。「粘土質の土壌で栽培され、そのおかげで身がつまったシャキシャキとした食感を持ち、甘みがあり、外観も光沢があって白いのが特長です」。そう語るのはレンコン農家の3代目である仲須農園の仲須之法さん(44歳)。令和2年度のスマート農業実証プロジェクトに参画し、手間のかかるレンコン栽培をスマート農機によって軽労化、効率化する試みに取り組んだ。まずはその背景となるレンコン栽培について聞いた。

 この辺りは湿田が多く水稲地域だったが、昭和21年に昭和南海地震が起こり塩害に見舞われた。そこで「塩害に強いレンコンを試したところ手応えがあったようで、他の野菜と比較しても収益性が高く昭和30年代から栽培が普及しました」。吉野川下流域の豊かな水源と強い粘土質の土壌が市場評価の高い鳴門市のレンコンを育んでいる。

 同園はレンコン専業で、経営面積は16ha。労働力は仲須さん夫妻と両親、6名の外国人技能実習生、さらに今年5月からは従業員1名を雇用した。収穫したレンコンは、主に地域のJAに出荷され、一部は地元直売所で販売されている。集荷されたレンコンの多くは、大阪中央卸売市場へ出荷され、同市場のレンコンにおける占有率は徳島県産が8割以上になっている。

中須之法さん
長細い形状の“備中”

重労働と引き換えにほぼ周年出荷を実現

 生産しているレンコンの品種は“備中”。レンコン生産量1位の茨城県は丸い形状の別品種を生産しているが、それに比べ、長細い形状で、白くてツヤがあり、シャキッとした食感が特徴になっている。収穫方法も異なり、茨城県では湛水したままのハス田に作業者が入り、高圧の水流でレンコンを浮かせて収穫する方法がとられているが、「土壌が粘土質なので、水圧でレンコンを掘ろうと思っても浮き上がってきません。私たちの産地では水を抜いて、表層の土はユンボで取り除いて、熊手で1本、1本手掘りで収穫しています」。泥と格闘しながらの収穫作業になる。収穫後は水槽で泥を取り除き計量して箱詰めし出荷する。これらの収穫作業は機械化されていない。各地生産現場を回ってきたが、それらと比較してレンコンの収穫作業は抜きん出て重労働だ。さらに、レンコンをつけ根から丁寧に掘り出すためには、体力だけでなく熟練した技術も必要で、「1日100本収穫できるようになれば一人前と言われています」。作業効率は極めて低い。

 収穫時期も長く、3〜4月に種レンコンを植え付けたあと、8月から収穫が始まり、6月中旬まで続く。また全てを収穫せずに筋状にレンコンを残して次の種レンコンとし、水を張って生育を促す方法もあり、それと組み合わせて、収穫できないのは6月下旬から7月下旬までの1ヵ月間だけとなっている。ほぼ周年出荷を実現し、収益性の高さもあって、安定した経営となっている。

 しかしそれは、常に重労働の収穫作業を続けることと引き換えになっている。さらに収穫と同時に植え付け作業が重なり、施肥、防除、水管理などの管理作業も行わなければならない。加えて土づくりも手が抜けない。16haの内、1〜2haを1年間使用せず、圃場をビニールで被覆する太陽熱消毒やふすま、米ぬかを投入して微生物の力で土壌を消毒する還元消毒を取り入れ、土壌改善を行い、防除効果を高めている。「1年間圃場を休ませることになりますが、その価値は十分があると思っています」。

 1人でできることは限りがある。収益性が高くても持続可能な農業を目指すなら労力の軽減と効率化が必須だ。これらの課題を解決するために、「父親から経営を継承したタイミングで、スマート農業に取り組んでみたいと考えていました」。

手彫りによる収穫
農薬の手散布作業の様子

ドローン、直進アシスト、車速連動施肥を導入

ドローンにより泥にまみれることなく防除を実現

 仲須さんがスマート化として考えたのは、ドローンによる防除だ。それに加えて圃場の代かきや水管理などは、水稲栽培で普及が進むスマート技術をそのまま活用できる可能性があり、それらをまとめてスマート農業実証プロジェクトの中で取り組むことになった。

 泥の中に踏み入っていく防除作業は収穫作業と同様の重労働。「先ず水を張った中を歩くだけでも、初めての人なら一歩も前に進むことができないかもしれません。そんな状態で手散布や背中に散布機を背負いながら薬剤を撒いていかなければなりません」。防除時期は5月と6月の2回。「特に6月になるとレンコンの背も葉も大きくなり密集状態になって作業もやりにくくなります。さらに暑さも増して、体力的にもきつい作業になります」。ただこの時期にしっかり防除しておかないとアブラムシが発生しレンコンの生育を大きく阻害する。そこでドローンによる防除に取り組んだ。変形田や狭い圃場を除いた12.5haで実施。空中機動力の力は絶大で、散布時間は慣行の半分以下に。何よりも圃場に入っての重労働が変形田や狭い圃場だけになり格段の軽労化を実現した。

 実証終了後もドローンによる防除は引き続き取り入れており、「今まで防除に使っていた時間を、収穫作業に充てることができ、非常に楽になりました。作業の効率化、軽労化をもたらしています」。また、防除の効果についても従来と全く変わらない。さらに、「ドローンでは面積当たりに必要量を均等に散布できるので、農薬使用量の削減に繋がっていると思います」。

ドローン散布の様子

直進アシストで技量を底上げし、作業分担が可能に

 トラクタによる作業でもスマートを導入。直進アシスト機能が大きな力になっている。「レンコンの場合たっぷり水を張った状態で代かきを行うので、作業した軌跡が分からなくなって、勘頼りになっていました。しかし、直進アシスト機能を使うことで、精度の高い作業ができるようになりました」。また、肥料散布では背負式の散布機を使っていたが、GPS車速連動施肥散布機をトラクタに装着して実施。大幅な軽労化になるとともに、肥料散布の均一化を実現した。経験の浅いオペレータにも有効で、新しく入った従業員がこれらを使用する予定。さらなる効率化を図っていく。「経験を積まないと難しかった作業も、スマート農機の力を借りればできるようになると思います」。今まで仲須さんに集中していた作業を分担することが可能となる。

 これらのスマート農機はスマート農業実証プロジェクトを通して、有効性が示され、仲須農園の営農スタイルをスマート化する第一歩となった。一方、圃場の水位や水温をスマホで遠隔監視するために、水稲で導入されている水位センサーを設置したが、実証で効果があると認められたものの、全面的な導入に至っていない。

 レンコン栽培も稲作同様水管理は重要。「可能な限り高い水位にしておくことで、病気を防ぎ品質の向上に繋がります」。しかし、管理する圃場は約100枚もあり、見回りだけでもその作業負担は大きい。そこで実証では自宅から1㎞以上離れている遠隔地の圃場40枚に水位センサーを設置した。「ピンポイントで水管理を必要とする圃場が分かるので、無駄な見回りをしなくて済みました。時間を有効利用して違う仕事に充てることができます」。水の見回りに費やしていた時間は導入前の半分程に削減できたが、「導入費用に加え、ランニングコストも発生するため経費負担が大きな支障になりました」。そのため現在は最も自宅から離れている9ヵ所の設置に留めており、本来の見回り負担軽減の効果は十分に発揮できていない。水位センサー導入のメリットは実証されているだけに、今後コスト削減をどのように図っていくかが課題となっている。

直進アシスト機能付きトラクタ
水位センサー

スマートは地域のレンコン栽培を守る力

コスト削減のためには産地全体での取り組みが求められる

 「作業効率が向上し、体の負担も軽減されました」。仲須さんのスマート農業導入の率直な感想だ。さらに、「今後の作業計画次第ですが、限られた圃場と労働力を有効に使って、生産量を増やしていくことも可能です」。生産性向上へ期待が膨らむ。

 一方、大きな課題はコスト。ドローン防除では、複数の経営体が連携することでコストダウンを図るという方法もある。しかし「JAがドローン防除に取り組む生産者を募っているのですが、手を上げてくれる人はなく、今は私たちだけというのが現状です。直進アシストトラクタについてもこの辺りのレンコン生産者ではまだ導入されていません」。産地全体でスマート農業を進めることがコストダウンの一つの方法だが、そこにはまだまだ至っていない。「そのためにも区画整理が必要になってくると思います。狭い圃場ではドローンや直進アシスト機能付きトラクタの機能を十分発揮することができません」。地域が一体となった取り組みが求められる。

収穫されたレンコンは泥を落として出荷される
GPS車速連動施肥散布機と直進アシスト機能付きトラクタとの連携

現状を突破するためにはスマート農業が必要不可欠 

 地域では「20年ほど前から後継者のいない生産者が増え始め、耕地を任せていただく形で私たちは今の規模になりました」。今後も高齢化によって離農する生産者は増え続ける見込みで、それに対応する体制が求められている。現状の人員、装備では今の規模が目一杯であり、「そこを突破していこうと思うと、大きく何かを変えていかなければなりません。これからもここでレンコンをつくり続けていくためにはスマート農業が必要不可欠なものになってくると思います」。

 仲須さんは子どもの頃、祖父母や両親が「レンコンを掘っている姿を見て自分もやってみたい」と思った。その思いが継承されれば地域農業は続いていくことになるが、現状は厳しい。ただ、“スマート農機を使った農業経営は面白そうだ”と思ってもらえるなら未来は続いていく。そう思える景色が少しずつ見え始めている。

レンコン畑
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