農業×SDGs: ながいもから電気/耕作放棄地をブドウ畑に/ヤマネコを守る米づくり

アグリトピックス

  全世界の持続的発展を視野に入れているのがSDGs。その中で、食の問題、環境の問題で農業が果たす役割は大きく、その期待に応えるためには農業もまたその持続性の確保を強く図っていかなければならない。そもそも農業の営みが環境にとって、生産者にとって負担となるのならその先に未来はない。各地の現場からSDGsの観点で明日に続くヒントを探る。

廃棄された“ながいも”から電気を生み出す▶JAゆうき青森(青森県上北郡)

 青森県上北郡の東部に位置する東北町、七戸町、野辺地町、六ヶ所村の3町1村を管区としているのがJAゆうき青森。この地域は、夏、オホーツク海高気圧の冷気が東方海上から季節風(ヤマセ)として吹き込み、夏季冷涼な気候となっている。それを活かして、国内トップクラスの生産となっているのが“ながいも”だ。春と秋に収穫されたものを冷蔵庫等で保管し、⼀年を通じて市場に供給できる体制を整えている。

 その中、生産量に伴って増加してきたのが出荷調製の段階で生じる残渣で、大きな課題となってきた。ながいもの切り落とされた先端部や傷んだ部分などが年間1500t発⽣し、それを廃棄物処理委託することで年間2000万円超の処理費がかかっていた。

 そこで、JAゆうき青森は野菜残渣の処理費用の削減、有効利用を模索。発電事業者と協力し、残渣を原料としたメタン発酵でバイオガスを生産し、それをもとにして発電を行うビジネスモデルの構築に取り組み始めた。まず、再生ネルギーベンチャーの㈱イーパワー、⽇⽴グリーンエナジー㈱などの⺠間企業が共同出資で合同会社を新設し、JAゆうき青森の所有地を借りて、バイオガス発電プラントを建設する。プラントは合同会社からJAゆうき⻘森に保守管理契約付きで賃貸され、同JAはこの施設でながいも残渣を原料にしたバイオガスの生産を行う。合同会社はそのガスを使って発電し、電気を固定買取制度により東北電⼒に売電する。その売り上げの⼀部はガス代⾦として同JAに支払われる。

 このバイオガス発電により年間36世帯分に相当する発電が可能で、JAゆうき⻘森にとっては、支払った設備賃借料から受け取ったガス販売代⾦を引いた差額が実質的なながいもの処理費⽤となる。従来の処理費⽤の約1/3程度を削減することが⽬標。プラントは2018年11月に竣工され、実践が進む。

 野菜残渣のみを使用したバイオガス発電の取り組みは、発電事業としてユニークで、地域の有機廃棄物処理問題へのアプローチとしても注目されている。これらの活動をSDGsの観点から眺めると目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」、目標13「気候変動に具体的な対策を 」に関係している。

耕作放棄地をブドウ畑へ 豊かな生態系を育む▶キリンホールディングス・メルシャン(長野県上田市)

 国内最大手ワインメーカーのメルシャンは、2003年、長野県上田市丸子地区の陣場台地にあった遊休荒廃地を、約29haに及ぶ広大なワイン用のブドウ畑として再生した。その土地本来の地形や景観に配慮しながら造成したもので、“椀子(マリコ)ヴィンヤード”と名付けられた。

 広⼤で美しい景観を持つブドウ畑は、⽣態系サービスについても大きな価値があるのではないかとして、2014年から農研機構と共同で生態系調査が実施された。それによると希少種を含む、昆⾍168種、植物258種を確認。ブドウ畑である椀子ヴィンヤードが、豊かな⽣態系をも育んでいることが明らかになった。耕作放棄地はワイン⽤のブドウ畑に転換されたが、栽培方法や管理を工夫し、適切に維持していくことで、⽣物多様性の維持・向上を果たす結果になった。

 椀子ヴィンヤードは、太陽光線を遮る棚栽培のブドウとは異なり、垣根栽培が実施され、適度に下草を⽣やすよう維持管理されている。そのため地面は牧草や在来種のイネ科植物でおおわれることになり、ブドウ畑が広大な草原の役割を果たしている。また年に数度行う下草刈りにより、草原性の在来種や希少種にも陽が当たり、ブドウ畑の中で生育することが可能になっている。

 同社は、希少種の発見を受けて、椀子ヴィンヤードの畑の中に再生地を設定。年数回の草刈りなどの⽇常作業を確実に継続するとともに、その効果の拡⼤を図るために、社員やNPO、ボランティア等と連携した植⽣再⽣活動などに取り組んでいる。また、2018年からは同社の他のブドウ畑でも、生態系調査を開始している。

 国産ワインの拡大は、遊休荒廃地の活用と地域の活性化、そして生態系を豊かにすることにも繋がっていく。同社では、得られた知見を広く公開していくと共に、学術的な調査を継続していくとしている。こららの取り組みは、SDGsの目標12「つくる責任つかう責任 」、目標15「陸の豊かさも守ろう」と重なる。

ヤマネコ保護への共感が新たな販路を生み出す▶佐護ヤマネコ稲作研究会(長崎県対馬市)

 長崎県対馬市には、絶滅危惧種のツシマヤマネコ(ベンガルヤマネコの亜種)が生息している。その推定頭数は100頭弱。その中、同市の上県町佐護地区の農家や住⺠が佐護ヤマネコ稲作研究会を立ち上げた。農業活動を通してツシマヤマネコの⽣息地保全活動を行うもので、同研究会では、⽣息地の⽥んぼを、⾃主的な栽培基準を定めて認定⽥とし、減農薬栽培による⽶づくりを⾏い、餌となる⽣き物を増やすことで、ツシマヤマネコが⽣息しやすい環境の維持・創出を図っている。

 認定⽥で生産された米は、“佐護ツシマヤマネコ米”と名付けられ、ヤマネコの保全活動や減農薬栽培を付加価値として、5㎏袋3000円で販売し、その販路をヤマネコがいる動物園など、保全活動に共感を持ってもらえる施設へと広げている。売上の一部は、事務局運営や販売窓⼝業務の⼈件費などの活動費に充てている。また、グッズ販売(ヤマネコ⽶のパッケージイラストを使った弁当箱や⾵呂敷、エコバッグ等)、⽥んぼのオーナー制度、その関連イベントの開催(オーナー約50名)などを実施し、多様な収⼊源を確保している。

 2017年には、⾃然保護協会による⽇本⾃然保護⼤賞を受賞。活動が社会的にも評価されている。  これらの取り組みをSDGsに照らし合わせると目標15「陸の豊かさも守ろう」、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」に繋がる。

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