国産子実コーンで水田の可能性を広げ、日本の畜産を強くする 取材先:滋賀県長浜市 ㈱TPF

アグリソリューション

  畜産にトウモロコシは欠かせない輸入に頼る割合が多く、中国の大幅な需要拡大、ウクライナ危機、円安進行により価格の高騰が続いている。そこで、注目されるのが国産。飼料用を含めた子実コーン全体の国内需要は1500万tを超え、その需要量は米の約2倍にあたるが、ほぼ全てを輸入に頼り国内では長く子実コーンが本格的に生産されることはなかった。

  しかし今、世界の穀物需給のバランスが大きく崩れ、如何に安定的に調達するかが畜産経営を左右する鍵になっている。耕種農家にとってみても、子実コーンは輪作体系に取り入れることができ、労働時間が少なく生産性が高い。今回、子実コーン組合を立ち上げ実証栽培をスタートさせた滋賀県を訪ね、国産子実コーンの可能性を探った。

水田でトウモロコシをつくる

近畿圏で初、滋賀県で組織的な子実コーン生産始まる

 今年4月に発足したのが滋賀県子実コーン組合。県内8名の農業者で構成され、子実コーンの普及と栽培技術の向上、組合員相互の連携、有利販売などの推進を目的としている。近畿圏では初めての組織的な子実コーンの生産となり、作付面積9haで、実証栽培をスタートさせた。今回、同組合のメンバーである㈱TPFの代表取締役田中康仁さん(41歳)に子実コーンの取り組みについて話を聞いた。また、同組合の副組合長で養鶏農家の中村耕さん(49歳)と事務局長を務める耕種農家の坂田滋さん(26歳)にも同席いただき、取り組みを伺った。

左から坂田さん、中村さん、田中さん
収穫を待つ子実コーン

畜種農家と耕種農家の出会いが新たな可能性を生んだ

 「TPFは田中パイロットファームの略です」と田中さん。同社は滋賀県長浜市で営農を展開し、水稲35ha、飼料用米、稲WCS、麦32ha、大豆40〜50ha、野菜関係ではタマネギ15haを中心に、ブロッコリーや青ネギ、イチゴのハウス栽培などを行い、土地利用型作物と野菜作を組み合わせた複合経営を行っている。「元々はお米中心で長く営農してきましたが、今はお米を減らして、田んぼだったところを麦や大豆などの転作作物に替えています」。時代の流れに合わせ、お米偏重経営からの転換を図っている。労働力は田中さんと4名の従業員、時期に合わせてパートスタッフ1〜2名。販路に関しては従来のJA出荷もあるが、直接取引への比重を増やしていく考えだ。さらに今年から新たな取り組みとして始めたのが子実コーンの栽培。まずは90aからの作付け。

 この子実コーンの取り組み、その始まりには養鶏農家の中村さんが抱いていた経営課題があった。中村さんは養鶏場で使用していた飼料を国産化しようと、「10年ほど前から飼料米での給餌に取り組み始めました」。しかし、配合飼料の子実コーンを飼料米に替えると卵の黄身が白くなってしまい、卵が従来から持っているイメージが変わってしまった。そのため飼料用米は、黄身に影響が出ない程度にしか使用できず、充分な国産化が果たせないでいた。トウモロコシを使うなら輸入になる、これが当時の常識で、「10年前は子実コーンを国産でつくるなんて、気運すらありませんでした」。そんな状況の中、昨年から子実コーンの試験栽培を始めたのが坂田さん。地域ではいち早く輪作体系に適する作物として、子実コーンを取り入れた。そんな坂田さんと中村さんが岐阜県で開催された子実コーン勉強会で出会い、「一緒に子実コーンに取り組んでみようかという話になりました」。

 こうして滋賀県での本格的な栽培に向けての取り組みが動き始め、坂田さんは懇意にしていた田中さんに相談し、田中さんも共に取り組むことになった。坂田さんの話から、「コーンの実をとった後は緑肥になり、土壌改良に使え、圃場も乾いた状態ですから、その後にタマネギを定植でき、うまく輪作体系に組み込めると思いました」。さらに、「ただつくっても売り先がないと困りますが、必要とされている中村さんが引受先となっていたことも大きなポイントです」。中村さんも、「子実コーンの取り組みに前向きな彼らと出会うことができて、国産子実コーン100%の配合飼料がつくれると思いました」。

 その取り組みは3人に止まらず、他の賛同者も集めることになり、滋賀県子実コーン組合が立ち上がった。畜種農家と耕種農家の出会いが新たな可能性を生むことになった。

収穫時の雌穂
収穫された子実

作業負担が軽く、反収は730㎏、課題は機械投資

麦、大豆の栽培で培った排水対策を活かす

 子実コーンをこの地の気候風土で栽培する場合、3月下旬〜4月上旬に播種して、8月下旬〜9月上旬に収穫する春播きと、7月中旬〜7月下旬に播種して、12月上旬に収穫する夏播きのどちらも行うことができる。「春播きと夏播きでどの様な違いがあるのか、それを検証するために、初年度は両方で取り組んでみました」。春播きで30a、夏播きで60aとなった。

 子実コーンは湿害に弱いため、栽培で大きなポイントとなるのが排水対策となる。「今回は水田後に子実コーンを栽培しましたので、暗渠をいれて排水をしっかり行い、播種を行いました」。湿害による生育不良もほぼ無く、種子を提供した種苗メーカーからも、『初年度でここまで上手く栽培する事例はあまり無い』との高い評価。「滋賀県は麦、大豆の栽培では全国でも高い生産量があり、水田転作での畑作物に関する技術や圃場づくりの技術が進んでいると思います」。子実コーンの取り組みに、麦や大豆で培った排水対策などのノウハウが活かされた形だ。

 排水対策をしっかりすれば、「元肥を入れて、播種を行い、5葉期ぐらいの時に雑草が生えていれば除草をして、後は追肥だけですね。そこからは収穫までそのままです。中耕もしません。意外と草も生えませんでした」。栽培管理に掛かる手間が少なく、「思っていた以上に圃場に入る回数が少なかったですね。これなら1人で10haぐらいは余裕で管理できると思いました。唯一難しいのは排水だけです」。

 9月に収穫された春播きの収量は反収で730㎏。実績のある北海道ならば900㎏を超えることもあるそうだが、「府県でしたら十分の収量です。目標とするのが600㎏だったので、初年度からこれだけ収穫できた府県はないと思います」。また、品質に関しても、「北海道の生産者から、滋賀県産の子実コーンは綺麗だと評価してもらいました」。従来栽培していた作物よりも作業負担は軽く、収量、品質とも満足いく結果となった。限られた労働力で規模拡大を進める生産者にとって魅力的な栽培作物だ。

 ただ、これまで取り組みが進まなかったのは、それなりの理由がある。「課題は機械投資です。播種機は大豆を生産している人であればその機械を使うことができると思うのですが、問題なのは刈り取りです」。子実コーンを収穫するには、コンバインに取り付けるコーンヘッダーが必要になる。初年度となる今回は実演を兼ねてメーカーから機械を借りて播種と収穫を行ったが、取り組みを続けるためには、それを今後どのように確保するかを考えなければならない。田中さんは子実コーンの生産に前向きで、実演で使われた真空播種機、汎用コンバイン、コーンヘッダーを購入したが、それぞれ事業規模が異なる組合員全員がすぐに子実コーン用の新たな機械を導入することは難しい。「先ずは設備投資ができるメンバーが先行し、組合の中で助け合えればと思っています」。組合のメリットを活かし、リスクを抑えながら新たな取り組みに挑む。

導入した真空播種機
子実の収穫時で使用するコーンヘッダー

普及のためにはさらなる施策も求められる

 他にも収穫した穀物の保管も課題だ。収量が多く、取り組みが進めば全体量が増し、保管スペースの確保が重要になる。「今は収穫した子実を乾燥機で乾燥させて、フレコンバッグに入れ、生産者それぞれが保管しています」。子実コーンは飼料として年間を通して使用されるが、誰がどこで保管するかは、事業拡大の鍵にもなる。

 では収益性の面からは、農業経営に対してどのような貢献があるのか。「どこを見るかで違ってきます。利益だけでしたら、麦とか大豆の方が上になりますが、1時間あたりの時給で考えるとコーンが上です」。また、輪作体系に組み入れて、圃場を有効に活用でき、売上をつくることになる。さらに子実コーンへの転作も、2022年度から水田リノベーション事業の対象となった。しかし、「子実コーンには畑作物の直接支払交付金がありません」。麦や大豆に比べると反当たりが生み出す金額は見劣りする。「販売単価を努力する必要があります」としているが、輸入物との価格差が広がれば競争力が弱まる。それは多分に国際情勢に左右されることでもあり、生産現場の努力に全て委ねるのは無理がある。普及拡大のためにはさらなる施策も求められそうだ。

麦や大豆に比べ、反当たりの金額は見劣りするが、時間当たりの収益性は高い

国産子実コーンで農業の可能性を広げる

5年以内に300tの子実コーンを生産する

 組合として目標にしているのが、5年以内に300tの子実コーンを生産すること。子実コーンの受け入れで主となっている中村さんが、現在、輸入子実コーンを年間300t使用しており、目標が達成できれば、それを全て滋賀県産の子実コーンに置き換えることができる。しかしそのためには、今年の春播きの反収730㎏をもとにすると、40ha以上での取り組みが必要となる。目標達成のためには今のメンバーの取り組み面積を拡大すると共に、「組合として検討会や勉強会を開催して、仲間を増やしていきたいと思っています」。

 また、生産費の低減も今後の課題となっている。「コーン栽培には非常にたくさんの肥料が必要ですが、今、肥料は高騰しています。そこで鶏糞を利用して少しでも肥料代を抑える方法がないかと検討しています」。耕畜連携の推進も栽培面積拡大のためには必要なようだ。

 これまで、「濃厚飼料は輸入品の一択しかありませんでした。しかし今後、子実コーンが転作作物の一つとして当たり前のものになれば、国産品を使うか輸入品を使うかの選択をすることができるようになります」と中村さん。それは経営の自由度を広げることになり、畜産物のブランド化や差別化を推し進めようとする畜産農家にとっては国産飼料で差別化を図ることができる。また、世界的な需給変動を受けた価格変動の影響を受けない飼料として畜産農家の安定経営にも繋がる。国産子実コーンの普及は、輸入濃厚飼料に依存してきた日本の畜産農家にとって、その経営の足腰を強くすることになる。さらに自給率の向上を考えるのなら、濃厚飼料の自給率を高めることは、カロリーベースにおいて国産畜産物の自給率に対する寄与度を上げ、食料安保の強化に繋がる。

 今回お訪ねした生産現場でも高齢化が進み、地域農業を守るためには少ない人数で多くの面積を耕作しなければならないという現状がある。「年々食用米の生産が減少する中で、それを代替する作物を模索し、私たちの立ち位置を築かなければなりません。その一つが子実コーンです」と田中さん。将来を見据えた力強い一歩があった。

 今回取材した11月19日には、2022年度子実コーン滋賀県現地検討会が開催され県内外から約80名が集まった。農業持続のために何ができるのか。その顔に可能性を探る熱い気持ちが見えた。

検討会には多くの人が参加した
熱心に話を聞く参加者
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