世界に開け!ジャパンアグリ サツマイモ輸出と6次化商品のショップ展開、観光農園で地域農業をグローバル化 取材先:㈱KOGANE ㈱シルクファーム

アグリソリューション

  日本の食は世界に誇れる。コロナがあり、各国が国を閉じるように動き、経済が縮小しようとも、世界は日本の食を忘れていない。諸外国でも日本と同じく外食需要が減退したものの、巣ごもり需要が堅調に伸び、その中で日本の食も選ばれている。2020年上期の農林水産物の輸出額を見てみると、外食で使われるような和牛や日本酒の消費は落ちてしまったが、米、酪農品・鳥卵、梨、桃、イチゴ、野菜(生鮮・冷蔵)などの輸出が伸びている。今が攻めどき。とはいえ、外に出て積極的なプロモーションを行える状況ではなく、外国人を迎えるのも先のこと。

  今、“世界の中で食を供給していく日本農業”になるための岐路にあり、日本の食がブームで終わるのか各国の食文化にしっかりと組み込まれるのか、さらに先に進む私たちの覚悟が求められている。いつまでも様子見では受け入れる方も本気にはなれない。今は大きな試練だがそこを乗り越えた先に日本農業の新しい形がきっとある。輸出の取り組みに日本農業の可能性を探る。(記事内の数値・状況は2020年10月現在)

香港にサツマイモを輸出する

鳥取県米子市で作った紅はるかが、日本の1.5~2倍の値で売れる

 香港にあるイオンにサツマイモを輸出しているのが鳥取県の㈱KOGANEだ。平成30年に10t、令和元年10t、そして令和2年もまた同じぐらいの量の輸出を計画している。「当初は20tぐらいを予定していましたが、同じサイズの国内出荷の引き合いが増えてしまいました」と、同社で取締役を務める西上光弥氏(40歳)。国内で販売するにはかなり小さなサイズとなるが、香港ではこれが売れ筋。日本語を全面に展開したパッケージが陳列台に並び、日本の1.5倍~2倍の値段がついている。しかしこれが売れる。一般の人が買っていく。香港では元々小さな芋を蒸して食べる文化があり、現地の炊飯器に付随している蒸す機能を使って、サツマイモを調理し、おやつにしたり、混ぜご飯にしたりするとのこと。「新型コロナウイルスの影響で高級食材などは大打撃があったようですが、自宅で消費するものについてはそうでもありません」。香港では日本食が定着しているようで、その中で選択してもらえる農産物として存在感を発揮している。しかもこの消費がインバウンドにも結びつくというのだが。西上氏にその実際を聞いた。

 この輸出されているサツマイモは鳥取県の米子から境港に広がる砂地の弓ヶ浜で作られている。江戸時代、飢饉の備えとして薩摩の国から山陰地方に導入され、広がったもので、歴史は古く、飢饉をしのぎ、腹を満たし、地域で暮らす人々に大きな恩恵をもたらしてきた。今、栽培されているのは紅はるか。ねっとり系で甘みが強い。これを年間200t程生産しているのが農業生産法人㈱シルクファーム。輸出を担当している先述の㈱KOGANEとともに石田コーポレーションのグループ会社となっている。西上氏が両社で取締役を務め、シルクファームが主に生産、加工、KOGANEが主に輸出を含めた販路の開拓、企画、デザインを担当。全体で農業の総合的な事業化を進めている。

 「KOGANEは2014年に日南物産㈱として設立され社名変更したもので、地域商社としての役割を持っています。シルクファームは農業生産法人で、2015年設立の㈱富ますシルクファームと2017年設立の㈱日南シルクファームが合併して誕生しました。両社合わせて、パートさんも含めて約50人の規模です」。西上氏は県外からのIターン人材で、大都市で保険会社に勤め金融、マーケティングの経験があり、専門性の高い知識を地方で活かしている。農業との関わりは割れたトマトの活用法を相談されたことから。

取締役の西上光弥氏
紅はるか

大規模生産でコストを下げ、ICTで実需者と繋がる

 相談を持ちかけたのは米子市に本部がある石田コーポレーションの石田康雄社長。同社は建材などを扱う総合商社だが、石田氏は障がい者支援にも取り組んでいて、誰もが働けるユニバーサル就労を実現できる仕事場を作ろうと始めたのが、耕作放棄地を利用したサツマイモの栽培。それをきっかけに農業の生産へと踏み込んでいった。しかしやる以上は利益を上げなければ続かない。地方は都市部に比べて空いている土地があり値段も安く、土地利用型の事業にとって利点は多い。その中で、大規模な生産により生産コストを抑え、ICT等を利用して実需者と直接繋がる機会を増やし、付加価値の高い商品を届けることができるのなら“農業は勝ち組になれる産業”だとし、農業関連のグループ会社も設立。石田氏が代表を務めて各種取り組みを進める中で、西上氏もこの事業に加わることとなった。

 当初からある理念のユニバーサル就労では、年齢、性別、国籍、障がいの有無を問わず、働きやすい環境を提供し、障がい者、外国人を雇用している他、障がい者を支援するNPO法人でミニトマトの選果が行われ、農福連携も図られている。さらに業容が多様化するにつれ、外国人従業員は訪日観光客の対応や香港での商談でもその力を活かしている。

 現在手がけている農産物は、露地とハウスで、サツマイモの他、イチゴ15棟、タマネギ100t、カボチャ、ミニトマト、米(コシヒカリ)など。ブルーベリーの栽培も始めている。サツマイモはお盆過ぎから12月初旬まで収穫が行われ、収穫物は自社保有のキュアリング施設で熟成し、大型貯蔵施設で保存。11月から4~5月まで出荷している。キュアリングとは貯蔵期間を延ばすために,収穫した作物を貯蔵前に一定期間高温多湿の条件下に置いてコルク層を発達させ,収穫時にできた傷口を塞ぐこと。コルク層を形成した後は低温多湿で保存し、良い状態を保ちながら安定出荷を行っている。年々人気が高まり、出荷の終わりが早まっている。

 イチゴは平場に中海フルーツパーク(米子市)、山間部にステラベリーパーク日南(日野郡日南町)という二つの拠点が有り、共に観光農園を展開し、平場では冬から春に実がなる一季なりを、山間部で夏秋イチゴと呼ばれる四季なりのものを生産している。ただ今年はコロナの影響で平場の中海では2月からインバウンド客の姿がなくなり、4月の非常事態宣言の後は閉園。その後、収穫物は市場出荷に回された。「幸い巣ごもり需要があって、スーパーで好調に売れました」。タマネギは生食用として出荷しているが、「単価が低いので、利益はそれほどありません」。

サツマイモを安定した品質で長期保存するためのキュアリング施設
キュアリング中の紅はるか

農業を総合的に事業化する

農産品の加工品をつくり境港にショップを展開

 農業を総合的に事業化していく中で、生産活動に加えて、加工の果たす役割も非常に大きい。「規格外品を活用するために、“鳥取県HACCP適合施設認定”を受けた農産品加工施設をつくり6次産業化商品を生産しています」。その中で、焼き芋を凍らせた“冷やし芋”や新製品“奇跡のねっとり大学芋”、イチゴや紅はるかのジャムなどを生産している。大学芋はペーストを真空パックにして蒸し、その表面を焼いてカラッとさせたもので、油も砂糖も使わず、健康志向にもマッチした期待の商品。加工品の取り組みは生産者による規格外品の有効活用という形から、生産も行う加工業者が加工により一次産品の価値を高めていくというものに姿を変えようとしている。

 販路は様々なルートを展開している。サツマイモは直接市場に出荷するものが多く、年々引き合いも多くなってきている。イチゴは観光農園で摘み取られる他、洋菓子店などに出荷する。またアンテナショップという形で、シルクファームで栽培された野菜・果物を使った、飲食業・小売業も展開している。3店舗あって共に境港の観光スポットである水木しげるロードにあり、焼き芋を直売する黄金マート、冷やし芋やカフェメニューが楽しめる黄金カフェ、イチゴを使ったスイーツを提供する苺一縁(いちごいちえ)がある。さらにインターネットを使って直接消費者へ届けるeコマースも計画している。加工品を原材料として取引する場合は、営業社員が担当する。

イチゴのデザートを提供する苺一縁(いちごいちえ)
夏秋イチゴのシフォンケーキ

日本製は美味しくて、安全、ちょっと高いけれど、こっちの方が良い

 輸出もそんな多様な販売活動の中の一つとして始まった。代表の石田氏が「香港で日本のサツマイモが売れるという情報を得ました。そこで現地に視察に行ってみると、日本食が浸透していることがわかり、スーパーの店頭では輸入された日本の食が人気で、高値で売れていました」。その風景にサツマイモの大きな可能性を感じ、受け入れ先を探すことになった。折良く「鳥取県と岡山県が、香港イオンで物産展を協同開催することになり、それにたまたま招待してもらうことができました。そこで日本系食材を扱う大手商社の方が声を掛けて下さり、取引が始まりました」。

 香港では中国から似たような芋が出回っているが、甘さはあまりなく、品質が違うとのことで、「日本の方が美味しくて、安全、ちょっと高いけれど、こっちの方が良い」と、一般の人々が買っていく。収穫物そのものの質が良いということと、保存方法や冷蔵コンテナを使った輸送で鮮度に気を遣い、高い品質で香港の人々に選んでもらえる農産物となっている。今のところGGAPなどの取得はなく、それに対する要請もないが、日本製という信頼は非常に厚い。

 同じく日本から輸入されている他産地のサツマイモもあり、それに比べるとシルクファームが輸出している1シーズン10tは「僅かな量です」。しかしその分伸び代があり、質が良いとして引き合いも多い現状で、これからも成長が見込める市場となっている。ただ「香港で消費されている小さなサイズばかりをつくるわけにもいきません」。適したサイズは全体の生産量の内、1割ほどで、最近は国内向けにも需要が増しているようで、全体の生産量を上げていかなければ、輸出量を増やすことができなくなっている。需要に応えていける生産計画が今後の大きな課題だ。

香港での試食販売
日本語を全面に展開したパッケージで販売されている

農業をグローバル化し地域貢献

商品パッケージのQRコードから観光農園の予約へ

 日本語が大きく目立つパッケージの裏にはQRコードがあり、そこから多言語化された産地情報や観光農園情報などを見ることができる。「香港では日本製に見せかけた偽物がたくさんあります。その中で、産地情報をパッケージと連動させて表示し顔の見える形で、“私たちは実在している”と伝えることは大きな信頼に繋がります」。その信頼を積み重ねていくことはブランドの形成に繋がっていく。「香港はブランドに敏感です。日本の鳥取県にあるシルクファームは安全で美味しいものを作っていますという認知が浸透していけば、後々、イチゴやその他の農産物を輸出するときにも、好意的に受け入れていただけると思っています」。ブランドは消費者にとって選択コストの削減に繋がる。偽物が多くものの真偽をはかることに多大な労力を要するところではなおさらだ。海外で商売をする上で、ブランドの価値は国内で考えるよりずっと重いようだ。

 また、このQRコードを使って、シルクファームが展開する観光農園の予約をすることもできる。「中海フルーツパークに来られていたお客様の約10%は外国からの訪日観光客です。その多くの方がこのQRコードを利用して予約していただいた方です」。コロナの影響で現在運休しているが、米子と香港の間には定期の航空便があり、またソウル、上海にも就航している。地方であっても海外との距離は近い。「香港の人は割と気楽に日本に来ています。訪日回数も多く、その中で東京はもう何度も行き、今度は田舎の方を見てみたいという気持ちが出てきているようで、私たちの所にも訪れていただいているようです」。

米子にある中海フルーツパーク
観光客に人気の水木しげるロード

地域農業をグローバル化し観光と結びつけ、地域活性化にも繋げていく 

 日本の農産物を食べ、美味しかったなどの経験が日本に対する興味を呼び起こし、QRコードなどで誘いながら実際の訪日に結びついている。訪日し米子や境港を訪れれば、イチゴ狩りを楽しむだけではなく、地域観光もあり物品の購入などもあって地域振興に繋がっていく。近辺には温泉があり、国立公園の大山があり、スキーや川で遊ぶこともできる。また日本を代表する漫画“鬼太郎”に関するコンテンツもあり、クールジャパンの観点から外国人にアピールする要素は大きい。地域資源は豊富にありそうだ。日本経済研究所が鳥取県西部の観光資源を活用した地域活性化のポテンシャルについて調査しているが、それによると、豊かな自然をレジャー化し、総合的にとらえたアドベンチャートラベルへの取り組みが鳥取県西部におけるインバウンドの鍵を握るとされ、大きな可能性を示唆している。

 新型コロナウイルス感染症拡大が沈静化し、訪日客が戻ってくるという前提のもとだが、地域農業をグローバル化し観光と結びつけることで、地域活性化にも繋げていく取り組みは非常に魅力的に思える。「私たちはグループの中で今、旅行業の資格を取ろうとしています。自分たちのコンテンツだけでなく地域のコンテンツも含めた独自の着地型のツアーを組めるようになりたいと考えています。農産物だけでなく旅行を扱える地域商社みたいな形ですね」。農業を総合的に事業化していく中で、農業の多面的価値の活用と言えるのではないだろうか。ただ一般の農家、農業組織が同じようなことを思いついたとしても、なかなか行動には移せない。資金、人材に厚さのある企業体ならではの強さを感じた。

 今後香港に向けたサツマイモの輸出は「50t、10万パッケージが目標です。そのためには全体の生産量を上げなければなりません。全体の1割を輸出にまわすとすれば、500tの生産量が必要です。耕作放棄地の再生を進めながら、作付面積を拡大していくということになります」。今期からは台湾への輸出も企図している。サツマイモは国際的に人気が高く需要は旺盛だということで、如何に供給を拡大していくかということが、売上にも結びついていくようだ。

 設立から5年ほどの活動で、大きな躍進を遂げているが、その分、投資も多く黒字化を目指すことが大きな目標となっている。「KOGANEは出荷のサツマイモの動きも堅調で取扱量が増え、商品開発も順調に進んでいるので、黒字化は見えています。シルクファームは設備に掛けた初期投資も多く、人数も多いので、もうひと頑張りです。これは生鮮だけでは非常に大変ですので、付加価値の高い加工食品の生産・販売が欠かせません。そういったものをうまく事業に乗せていくことが必要です。これは農業法人のビジネスモデルではなく、加工食品会社のビジネスモデルに近いのかもしれません。この方向性であればさらに大きな収益を目指せるのではないかと思っています」。

 事業の成功が地域活性化にも繋がるわけで、「地方で成功する農業のモデルケースになりたい」とする願いは、地域振興の一つの形を作りたいとするものでもある。地域資源を活用し、生産だけにとらわれず、販路にもとらわれず、農業の多面的価値を総合的にとらえ、これを事業化し、地域活性化ともリンクしていく姿に、明日の農業が見えた。目標に向かって進む姿に大きな勇気を得た。 

冷やし芋が食べられる黄金カフェ
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