環境先進県最大規模で有機JASを実践する大規模土地利用型農場!有機は前に進むための力 滋賀県草津市㈲クサツパイオニアファーム

アグリソリューション

  2015年に国連サミットで採択されたSDGsは「持続可能でより良い世界を目指す」とし、“誰一人取り残さない”と尊い志を掲げる。食料を供給する重要な役割を担う農業に対しては、高いレベルでの持続可能性が求められており、人口増加に対応する増産を図りながら資源循環、生物多様性の確保、気候変動への対応などが求められている。

  それに応えようとする一つの試みが有機農業だ。ただ、慣行農法に比べて労力がかかり、収量は上がらず、手間が価格に反映されにくいなど課題も多く、国内の有機農家数は全体の0.5%ほどに止まる。しかし大きな魅力がそこにあるのも事実。この試みがSDGsの力となるために何をしなければならないのか。若手の有機農業経営者の取り組みを探った。(記事内の数値・状況は2021年4月現在)

滋賀県最大規模を誇る有機JAS認証農場

水稲32ha、圃場の90%以上で有機JAS

 滋賀県では琵琶湖の環境保全を契機に、2003年に農薬や化学肥料を削減する“滋賀県環境こだわり農業推進条例”を施行し、環境に優しい農業の推進を早くから実践してきた。昨年にはSDGs達成に向け、農業分野では全国初となる“持続的で生産性の高い滋賀の農業推進条例”を採決するなど、環境に配慮した農業を全国に先駆けて推進している。

 そこで今回は滋賀県に伺い、草津市で有機農業に取り組む㈲クサツパイオニアファームを取材した。栽培面積は水稲32ha、麦と大豆18ha、その他ハウスや露地で葉物野菜、赤紫蘇を各1ha、労働力は常勤、非常勤合わせて20名の従業員、有機農業による高付加価値の農産物生産を大規模に展開している。経営を担っているのは、昨年10月に代表取締役に就任した中山欽司さん(39歳)。「当社の特徴は、圃場の90%以上で有機JASの認証を得ていることです。この規模はおそらく滋賀県内でナンバーワンだと思います」。

 有機JAS認証を取得している水稲の栽培品種は、コシヒカリ、日本晴、滋賀県の在来種である滋賀旭27号、みずかがみ、酒米の山田錦、その他にもち米の滋賀羽二重糯。収穫時期の異なる品種で農作業の集中を避け、合わせて取引先の多様なリクエストに対応している。収穫した米は、1/3が全国の消費者に直接販売され、1/3が生協に、残り1/3が酒米をはじめとした業務用として出荷される。また、野菜は生協での扱いが主体。麦や大豆は加工用として出荷され、有機JAS認証の原材料を使用した付加価値の高い麦茶や醤油、味噌となる。「お米に関しては販売が伸びていたのですが、新型コロナウイルス感染症拡大で業務用に影響が出ました。有機JASの麦や大豆に関しては、世間に殆どなく、引き合いが多くきています」。有機JAS認証を受けた同社の米は、慣行栽培に対して約2倍の小売価格で販売されているが、強い需要があり、新型コロナによる影響はあるものの、健康志向、安全・安心、エシカル消費などを背景として着実に顧客を増やしている。

中山欽司さん
有機JAS認証圃場で栽培される葉物野菜

有機は生き残るための付加価値

 クサツパイオニアファームは、1992年に現在相談役を務める奥村次一さんが設立し、1997年からは無農薬栽培と合鴨栽培を導入。2000年に有機JASの認証制度が開始されたのと同時に、当時20haほどの圃場全てで有機JASの認証を取得した。「よくあるパターンは、20haの農地を持っていても、有機JASの認証を取得するのは、その内の1〜2割程度で、そんな形でスタートするのが一般的です」。有機栽培のノウハウが蓄積できていない中で、一度に全てを有機栽培に転換することは非常にリスクが大きく経営を脅かすことになる。それでも有機栽培に転換したのは、「作る人にも食べる人にも安全・安心でありたい、味のある米作りをモットーに始めたことと、この近辺は比較的山手で圃場一つ一つが小さく生産効率が悪い場所です。そのため、同じ単価の米をつくっていたのでは利益が出ません。付加価値のあるものをつくらないと私たちは生きていけない。その付加価値のある商品が有機JASでした」。

 有機栽培に取り組み始めた当初は反収も少なく苦労も多かったが、今振り返ってみると、前社長である奥村さんのあの時の決断が、「今の会社の大きな強みになっています」。その流れは二代目の中山さんに引き継がれ、有機栽培の技術はさらに進歩し、持続可能な農業とするための新たな挑戦に取り組んでいる。

有機栽培の技術は進歩し、持続可能な農業とするための新たな挑戦に取り組む

トンボのように力強く前へ進む

有機で反収7俵、10俵を目標に技術を蓄積

 中山さんは大学の農学部を卒業してクサツパイオニアファームに入社した。「農学部に進んだのは、農業への関心というよりも、子供の頃から昆虫が好きで、昆虫学のある農学部にどうしても入りたかったからです」。その後、農業への関心が芽生え、大学での学びを通し、「農業の実際の現場で働く人達を助けることができる人になりたいと思いました」。そのための方法は幾つもあるが、中山さんは就農を決断。「農家のための農家になりたい」と研修先でもあった同社に入社した。その後28歳の時に独立し、 作った野菜や生産論がSNSによって拡散され、地域のカリスファーマーとして評価されるまでになった。そこで、これからは仲間を増やし事業規模を拡大していこうと考えている時に、「前社長から、ここに戻ってくるのも一つの手だよ。と事業承継のお話を頂きました」。2016年にクサツパイオニアファームに戻り、昨年代表取締役に就任した。

 中山さんが今取り組んでいる一つが、米の収量を増やすことだ。「以前の平均反収は5俵から6俵でしたが、有機栽培のノウハウが蓄積されてきたことで、収量は着実に伸びてきています。今年は反収7俵を目標にしています」。そのために、今年は新たな有機栽培の知識を取り入れるため、「技術理論を学びに、県からの斡旋で研修に行かせてもらいました。土壌診断を行って、肥料設計も変えて取り組み始めています」。これまでのノウハウに新しい理論をプラスしていく。複雑精緻な自然を相手にしているわけで、学びの姿勢を怠るわけには行かない。常にチャレンジすることが、有機農業を前に進める。「平均反収7俵は、なかなか高い目標です。でも10俵ぐらい収穫できてプロの有機農家だと自分に課しています」。

反収7俵を目指す
着実に反収は伸びている

有機農業の価値は生物多様性の確保にもある

 化学肥料に替わる物として、「魚粕や自前の米糠をペレット状に加工し、田んぼに戻しています」。また、大量に出る籾殻も鶏糞と混ぜ合わせ堆肥化して野菜の栽培に使用するなど、循環型農業の取り組みが行われている。除草に関しては、「田植え直後に、米糠を播いて、水田の表層を酸欠状態にして雑草が生えない環境をつくることが第一のステップになります。様々なことを試行錯誤しながら行ってきました。今はそれなりに抑えられている状態です」。それでも草を抑えられない時は、除草のために多くの手間と労力が必要となる。そこで期待されているのが、「新しく導入した乗用型水田除草機です。生やさないようにするのが一番大事で、それを目指していますが、それでも草が生えたときには、この除草機で対策します」。有機農業は多くの手間が掛かり、それを大規模に行うためには多くの労力が必要となる。同社では、「有機農業に魅力を感じて、若い人達が入ってきてくれています」と、人材には恵まれているようで、常勤の平均年齢は38歳で若い力が現場を支えている。

 「慣行栽培と比べて収穫量が劣りますが、販売単価は倍以上となっています。新型コロナにより業務用の出荷は減りましたが、全体的には、需要は増えている状態です」。収量増が売上増に結びつく状態で、現場の士気は高い。

 「私たちの強みは有機の米。このノウハウを最大化して、私たちは儲けていくとみんなに伝えています」。その想いは同社のロゴに込められている。そこには、この地域をモチーフにした田園風景に、頭を垂れた稲穂とトンボが3匹描かれている。「トンボは前にしか飛びません。そして、勇ましさの象徴でもあります。前に向かって、仲間と共に農業に取り組んでいきます」。

 この競争力を支えている有機農業は様々な価値をもたらしているが、生物多様性の確保に貢献していることも付加価値の一つとなっている。「私たちの田んぼには絶滅危惧種と言われているタガメやミズカマキリなどの水生昆虫が生息しています」。タガメは水田の生態系で頂点に位置することから、タガメがいることはその水田に多くの生物が生きているという証になる。多くの生物が暮らす豊かな自然環境の中で営まれている農業には確かな持続性があり、それが利益を生む生業として成立していくのなら、より良い世界を目指す役割をしっかり果たしていけるに違いない。

乗用水田除草機を導入
同社のロゴにはトンボが描かれている

有機農業の力で豊かな地域づくりを

古代米の栽培にも取り組み、彩りのある観せる農業

 「農業は食べ物を生産するだけではなく、地域の風景を形づくることでもあります」。中山さんはそんな思いもあって、田んぼに赤紫蘇を植え、田園風景に彩りを添えている。黄金色の稲穂が揃う田園風景に、色鮮やかな赤紫の帯が広がる。「観せる農業を意識しています」。さらに古代米の栽培にも取り組み、田んぼには赤や黒の稲穂が目を惹く。「通りがかりの人が写真を撮ったり、作業をしていると声を掛けてくる人もいます。私たちに興味を持った人がお客さんになることもあります」。

 この景観が地域のシンボルとなり、人が集まれば、話題になり、交流人口が生まれ、地域活性化に貢献できるかもしれない。「私たちが景観を100%つくるのではなく、この地域の農家の方とも一緒になって農作物をつくり、この地に沢山の人が訪れて欲しい。様々な農産物でこの地域を染めて、またそこで食べることもできる“食べれる村”をつくりたい。そんなビジョンを持っています」。また、古代米は食の需要もあり、景観としてだけでなく、加工品にも力を入れている。

古代米の栽培にも取り組む
加工品にも力を入れている

滋賀県が有機農産物の一大産地になっていけば嬉しい

 有機農業がより良い世界をつくるための役割を果たせるとしても、小さなスポットに止まって広がることができなければ大きな力にはならない。今、同県では水稲作付面積の44%が減農薬・減化学肥料で栽培されており、昨年からは有機JAS認証米推進の取り組みをさらに強化している。「有機農業に対する県からのバックアップも厚くなっています。要望があれば、県内の有機栽培の普及や指導にも取り組んでいきたいと思っています」と、面的な広がりを進めることにも意欲的だ。「市場は間違いなく拡大しています。滋賀県が有機農産物の一大産地になっていけば嬉しいことです」。県全体として高いレベルの持続性が実現されれば、不可逆的な展開として、県をまたいでいくようなさらなる広がりも期待できそうだ。

 クサツパイオニアファームは社員全員でつくった4つの企業理念がある。その一つは「農業で世界の模範となる豊かな地域づくりを進めます」とあり、志は高い。さて皆がお手本にしたくなる地域とは。意味のある仕事があり、潤いのある暮らしがあり、笑顔がありと、幾つも思い浮かべることができるけれど、何よりも大切なのはそれらがいつまでも続くことではないだろうか。持続性の実現。簡単ではないけれどそこには進むべき大きな価値があり、同地での取り組みに期待は膨らむ。

「農業で世界の模範となる豊かな地域づくりを進めます」(同社企業理念より)
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