無駄にしないレジリエントな農業~ワイン専用種ぶどうと規格外農産物の有効利用 山形県 寒河江市/山形県 株式会社FARMER’S

アグリソリューション

  「持続可能でよりよい世界を目指す」としているのがSDGs。その取り組みの中で農業が果たす役割は大きく、目標2の「飢餓をゼロに」では、“食料の安定確保と持続可能な農業を推進する”とし、『生産量を増やし、生態系を維持し、気候変動などの適応力を向上させ、持続可能な食料生産システムを確保し、強靱(レジリエント)な農業を実践する』としている。農業が環境や社会の変化の中で翻弄されず、その持続性を確保できるなら世界の存続に大きく貢献するということであり、達成する意義は大きい。挑戦は農業の進化を促す

  では具体的にはどうすれば良いのか。どうすれば強靱さを得ることができるのだろうか。力を持つためには幾つか方法がある。大きくなることや技術を持つこと。それは他者に優る力を得ることに繋がるが、誰1人取り残さない持続可能な世界をつくるというのなら、多くの敗者の上にただ1人の勝者が立つという構図はふさわしくない。ならば足りない力を補うために仲間をつくるという方法はどうだろうか。連携による強靱さに持続可能な世界のヒントがある。その中で丹精込めた農産物を無駄にしない取り組みに、これからの農業を探る。(記事中の数値・状況は2021年10月現在)

高く評価される寒河江のワイン専用種

コロナで農産物が廃棄される

 農産物に設計図は無い。自然の恵みを受け、また自然の厳しさと戦いながら、その時々の最善を目指しながら作物を育てていく。だから同じものは二つとしてない。そこが工業製品とは違うところ。どこでも同じ物が大量につくれるわけでは無く、時間をかけ気候風土の影響を受けながら生産者に育てられていくのだ。そこには程度の差はあるけれど確かに愛がある。育てるということは愛情が必要だ。

 そうやって丹精込めて育てられた農産物が、誰にも引き取られずただ朽ちていくことになるのならどんなに悲しいことだろうか。もちろん経済的にも大きな打撃となり、農業の持続性を脅かすことにもなる。コロナ禍の中、急激な社会情勢の変化で、需要が激減し、販路を閉ざされた農産物が多く出た。農作物は工業製品と違い、需給状況に応じて敏感に生産量を調整することは難しい。工場を止めるように成長を止めることはできない。では売る当てもないのにできてしまったものはどうするのか。経済的、心理的打撃をただ受け入れた生産者も多くいたが、危機を乗り越えるため、各地で様々な取り組みが行われた。

 山形県の寒河江市では昨年、新型コロナウイルスの影響によりワイナリーで使用される原料のぶどうがその行き先を失ったが、ぶどうを仕入れワイナリーに販売していた事業者などが中心となってワインの製造を企画し、ふるさと納税の返礼品などとして地域のぶどうを有効活用した。

寒河江でつくられているワイン専用品種
収穫をまつシャルドネ

寒河江産原料のワインがパリで金賞評価

 山形県でのワイン製造は明治中期に始まり、その歴史は長い。ただ当初は生食用にもなったぶどうをワインの原料としても使い、それが長く続いていた。しかし1970年にワインの輸入が自由化され、大阪万博の開催など海外への関心が高まる中、ワインの消費が伸び、それと共にワイン専用種のシャルドネ、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンといった品種の栽培が本格化していった。

 山形県の内陸は盆地気候で、夏の気温が高く、昼夜の寒暖差は大きい。降水量は少なめで、ワイン用ぶどうの栽培には恵まれている。そこで育てられるワイン専用種の品質は高く、日本でワインブームが幾度か起こる中、評価を高め、栽培技術の進化も有り、県内のワイナリーで使用されている他、県外からも多くの引き合いを受けている。

 そんな状況の中、寒河江市で生産者として活動しているのが冨樫高広さん(73歳)と安孫子悦郎さん(71歳)。この地でワイン専用種を手がけた先駆者で、栽培技術の向上や新しい品種に取り組み、また勉強会で園地視察を実施するなどして、地域農業に貢献している。「この地で生産しているワイン専用種を全国で通用するものにしたい」と冨樫さん、「ワイン専用品種は他の産地でも手掛けているので、このぶどうなら使ってもよいと思ってもらえる品質にしなければならい」と安孫子さん。共に志は高く、それを実現するための取り組みに力を注ぐ。

 園地は一般的なぶどう栽培でよく見かける棚仕立てではなく、木を1列に並べていく垣根仕立て。ヨーロッパなどで行われている栽培方法で、「ぶどう栽培には太陽光線が必要です。こうすると陽の光をより多く当てることができます」。また「日本には梅雨や秋雨があり、特に収穫時期に雨に降られると割れたり、腐敗の原因になります。しかし近年、収穫時期に雨よけのビニールをかけ保護することで健全な形で収穫し、県外のワイナリーにも安心して出せるようになりました」。それは冨樫さんがサクランボ栽培で行っていた雨よけを見て思いついたことで、周囲の生産者にも広がっていった。地域全体で品質の向上が図られ、寒河江産100%のシャルドネで県外のワイナリーがつくった白ワインがパリの品評会で金賞を受賞するなど、その評価を着実に高めている。「世界に誇れるワインの原料になることは私たちの張り合いになります」。

左から安孫子さん冨樫さん、小玉さん
垣根仕立てのぶどう畑
丹精込めてぶどうを育てる

新型コロナで行き先を失ったぶどうを活用

外食需要が激減しワイン消費にも深刻な影響

 しかし2020年には新型コロナウイルスにより農業を取り巻く環境が大きな変化を受けた。感染症拡大防止のため飲食店が休業を余儀なくされ、外食におけるワイン消費も激減。国内ワイナリーも供給元として大きな打撃を受け、新たな醸造を控えざるを得ない状況となった。しかし農産物はそれに合わせて生産をストップするというわけにはいかない。結局収穫されたぶどうの一部が行き場を失い、誰にも引き取られなければただ廃棄するということになった。

 また昨年は7月に記録的な豪雨が発生し、東北地方については山形県を中心にした甚大な豪雨災害となり、地域のデラウェアに実割れや腐敗などの被害が出た。結果、生食用が減り、ワインなどの加工用が増えることになったが、これも同じく新型コロナウイルスの影響による需要落ち込みで、引き受け手がいない状態となった。

 シャルドネが10t、デラウェアが10t。愛情を注いで育ててきたものを廃棄することは、心情的に非常に辛く、生産者がその損害を全て被ることは経済的な打撃も大きい。

需要が無くなれば、生産物は行き場を失う
赤ワイン用のワイン専用種も栽培している

地域が連携しワインを製造、ふるさと納税の返礼品に

 そこで地域が動きだした。まずは地元でぶどうを集荷しワイナリーにワイン用原料として出荷していた寒河江市の㈱丸松青果がぶどうの活用について検討を始めた。「国産のワインブームもあり、需要は右肩上がりでした。それで私たちも地域の生産者の方々にぶどう栽培をお願いし、毎年収穫量が増えていました」と当時の事情について丸松青果の小玉俊史専務取締役(41歳)が教えてくれた。その矢先に起こったのが新型コロナウイルス感染症の拡大。

 「私たちは生産者の方々が丹精込めてつくったぶどうを売るのが使命です。不測の事態で需要が減ったとはいえ、何とか全量を活用する方法を探りました」。そして寒河江市に相談したところ、『令和2年度寒河江市農畜産物ブランド緊急応援事業(加工用ぶどう活用促進支援事業)費補助金』の活用を提案される。ぶどう農家支援のためのクラウドファンディングを実施し、その支援を財源としたもので、加工用ぶどうの購入に要する経費に対して補助が行われた。

 それにより生産者から余剰となっていたぶどうを買い取り、地元の地酒製造・販売を行う業者も加えてワインの製造を企画した。デラウェアを原料にしたものはサガエエトワールと名付けられ1月より、シャルドネを原料にしたものはサガエプレリュードと名付けられ4月より展開し、ふるさと納税の返礼品などとして活用され、一部はオンラインでの販売も行われた。

寒河江産ぶどう100%のワイン

リスクを負担し合い、農業持続の力に

 一般的に天災などに見舞われた時、例えば台風などで果物が落下すれば、それは生産者の被害として処理されることも多い。しかしそれは果たして正しいことなのだろうか。台風の責任が生産者にあるとは思えない。うまくリスクが分け合えれば、負担で倒れてしまうことも少ないはずだ。寒河江市では事業者、市、生産者が連携し、不測の事態に対応した。「良いときも、悪いときも、共に生産者と歩んでいきたいと思っています」と小玉専務。愛情をかけて丹精込めてつくったものを無駄にしたくない。それは生産者だけでなく、関係の深い事業者も、地域自治体もクラウドファンディングに賛同した人々も皆同じ気持ちだ。それが人々を結び、助け合うことで農業持続の力に繋がっていった。

 今年もコロナ禍にあり、状況は依然厳しく、需要減が続く。「ワイナリーではタンクにまだワインが残っていて、新たな醸造を控えるところが少なくありません。今年も生産者のお役に立ちたいと思っています」。強い連携が農業を強靱にする。

規格外農産物を販売し、食品ロス削減

もったいないを、何とかしたい

 大切に育てた農産物を無駄にしたくない。その気持ちは新しい事業を進める力にもなる。山形県東根市を活動拠点にしている㈱FARMER’Sは、“廃棄を消費に変える”として規格外農産物の販売事業をネット中心で展開している。代表を務めるのは中川史明さん(21歳)で、今年の3月に会社を設立した。自社が展開するECサイトやフリマサイトのメルカリを中心に、東京高円寺で月一開催するマルシェや、飲食店、加工業者への事業者向けを加えて、規格外農産物を展開している。

 事業を起こす前はアメリカイリノイ州のノースセントラルカレッジに在学しEntrepreneurship(起業家精神)を専攻していた。「そこで4年間学び、帰国後に起業したいと考えていましたが、新型コロナウイルスにより、2020年の春に勉学を中断し、帰国することになりました。実家は東根市でサクランボ農家を営んでいたのですが、同様に新型コロナの影響を受け出荷が減っていました。そして仕事を手伝う中で規格外となる農産物の多さに驚きました」。毎年1tほどが規格外として廃棄されており、「非常にもったいないと思いました」。“それを何とかしたい”、その気持ちが起業へと結びついていった。ただでさえ売上が減っている中にあって、その思いは強かったに違いない。

中川さん
中川さん実家のサクランボ 樹園からは毎年1tほどが規格外となる

 まずは手始めに、昨年6月の収穫時に規格外となった実家のサクランボ1tをメルカリで販売すると、程なく完売。7月には山形県で豪雨災害があったが、その時尾花沢では特産のスイカに大きな被害が出ており、傷ついたもの10t分をメルカリで販売したところ買い手が付いた。その後、様々な果物の販売を5ヶ月間ほど続け、約3000件の取り引きで450万円ほどの売上となった。

 「当初父は売れるはずがないと言っていました。それが生産する側の当たり前だったと思います。しかし売ることに躊躇いや遠慮があったものに実は強いニーズがあって、安くて美味しければ形が悪くてもよいという消費者が確実にいることが分かりました。生産者と消費者には考えにギャップがあるのです」。そのギャップを埋めることにビジネスチャンスを見いだした。大学では環境と社会に配慮した持続可能なビジネスについて学んでおり、社会的な問題でもある食品ロス削減が地域農業の持続性にも繋がるとして、規格外農産物の販売事業を本格化するためクラウドファンディングを実施し、理念・趣旨の賛同者から資金を得て、株式会社として起業した。

 「オンラインで約30軒の生産者にインタビューしたところ、規格外農産物は収穫物の約30%になり、それが全て販売できれば収入が約20%向上するとのことでした」。それまで廃棄していたものが売り物になるわけで、生産者にとって利益向上を図る大きな力になる。

自社ECサイトを構築し、規格外農産物を販売

 現在は県内約50軒の生産者と契約を行い、FARMER’Sからの引き取りや生産者からの発送によって規格外農産物を集荷し、それをメルカリや自社ECサイトのveebo(https//veebo.jp)で販売している。メルカリでは農産物を単品で出品し、veeboでは規格外となった旬の野菜や果物を箱詰めし、契約に応じて定期的に購入者のもとへ発送している。

 「最初は生産者の方がそれぞれ独自に規格外農産物を出品できるマーケットプレイスを考えていましたが、出品にかかる生産者の負担が増え、利用のハードルが高いようで今は私達が出品にかかる作業を行っています」。この方法ならば、生産者にとって特別な作業が増えるということがなく、この事業に参加しやすい仕組みとなっている。また、農産物を送る前に商品の品質を確認することができ、発送に関しても梱包の不手際で商品を損なわないような一定の品質で送れ、購入者の高い評価に繋げることができる。

 契約農家の開拓では「何件も何件も電話して、趣旨を説明し、話を聞いていただけませんかと地道な活動をしています」。新しい事が受け入れられるためには時間がかかるが、農村部ではそれが少し多くかかるかもしれない。販売に関してはSNSを活用し、少しずつ認知度が上がっている。

 異常気象が常態化するような状況で規格外農産物が増えるリスクが高まっている。またコロナ禍の中、いつ需要が回復するのか見通せない日々が続く。生産者にとっては経営を守る手段として、選択肢の一つにするメリットは大いにある。生産者が力を借りてもいいとする地域農業の仲間になれるのではないだろうか。またこのサービスを利用することで 生産者、消費者とも食品を無駄にしない取り組みに参加することができ持続可能な世界に向けての貢献ができる。

 将来的には「食品ロス削減に貢献するという理念を全面に出して、規格外農産物をメインに扱う社会性のある新しいマーケットプレイスをつくっていきたいと思っています」。 規格外農産物を廃棄から消費に変える 。それは持続可能な世界に向かう道であり、また農業に強靭さを与える方法でもあるに違いない。

丁寧に梱包され購入者に届けられる規格外の農産物
BOXに旬の野菜や果物を詰めて届ける

助け合うことが持続の力になる

 不測の事態で需要減が急速に起こった場合、異常気象で規格外の農産物が予定以上に出た場合、そんな緊急事態を生産者個人の力で乗り越えようとすることはあまりにも負担が大きい。世界が高度化、複雑化する中で、立ちはだかる障害も大きく頑強になっていく。その中で倒れず、歩みを止めず進んでいくためには、助け合うことが必要だ。それぞれが持つ機能を十分に発揮しながら互いに尊重し連携することで困難に立ち向かう大きな力になる。

 寒河江市のぶどうを巡る取り組みもそうだし、東根市を拠点に活動する規格外農産物の販売事業もそうだ。その両者にクラウドファンディングが関わっていることも印象的だ。持続を実現する強靱さを得る方法の一つは、仲間をつくるということだ。ではどうやって仲間を得るのか。利だけで結びついているわけではない。丹精込めた農産物を無駄にしたくない、生産者を助けたい、地域を守りたい、そしてよりよい世界を目指したい。その中心には愛が透けて見える。困難を乗り越え、農業の持続、世界の持続を目指す道が、そこにあるのではないだろうか。

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