マーケットインで農産物輸出 現地バイヤーと密に繋がり、ニーズに対応 取材先 三重県津市 農業生産法人㈱いのさん農園

アグリソリューション

  農業を取り巻く環境は厳しいが、成長産業にしようと様々な取り組みが行われている。その中で、新たな販路として海外に目を向けていく動きに注目が集まる。国の成長戦略である「攻めの農林水産業」でも輸出拡大が謳われているが、音頭にのるだけで、一朝一夕に目標が達成できるというものでもなさそうだ。輸出拡大を着実に進めていくためには、海外の消費者に選択される、確かな価値を提供するということが何より求められる。そのためには、グローバルな視点にたった農業経営が必要になってくるのではないだろうか。

  作物をうまく育てるということの他、国際的な感覚を持ち、何が求められているのかを知り、それに対応していかなければならない。積極的にコミュニケーションを図り、マーケティングを行い、新しい価値を生み出していく。世界に挑む新時代の生産者を追った。(記事中の数値・状況は2020年4月現在)

新規就農で観光農園に取り組む

一般企業に就職するも、農業がやりたくて

 就農から10年ほどで、農産物を輸出するまでになった生産者を三重県津市白山町に訪ねた。ブルーベリーを主力にイチゴの栽培も行う㈱いのさん農園は、平成21年に設立され、岡田孝幸さん(34歳)が代表取締役社長を務める。現在、岡田さん夫妻と正社員、パートを含めて5名の従業員が働き、ブルーベリー35a、イチゴ20a、イチゴの苗床10aを経営している。ブルーベリーは市場に出荷せず東京を始めとした量販店に販売。大粒で糖度が高いと消費者の支持を得ている。また、観光農園や6次産業化にも取り組み、加工品ではジャムやドリンク類の商品開発、販売に力を入れている。そして、平成28年からは加工品の輸出にも取り組みはじめ、平成30年からは生のブルーベリー果実の輸出もスタートした。

 岡田さんは非農家出身。農業とは無縁の生活を送っていた。しかし、「大学生の時に、実家でサクランボを栽培している友人宅へ遊びに行き、そこで、温度を管理してサクランボの収穫時期を少しでも早くしたり遅くしたりして、付加価値を付けて高く販売しようと工夫されているのを見ました。今まで自分がイメージしていた農業と全く違うことに驚きました」。この経験が農業に興味を持つきっかけとなる。大学卒業後、一旦は一般企業に就職するも、農業を通して地域に貢献できる仕事ができないかと考えていたおり、「この近くを東西に走る主要道路の国道165号線は、東に梨の観光農園があり、西にブドウとイチゴの観光農園があります。夏に収穫できるものがなかったので、そこを補う作物を作れば1年を通して観光農園が楽しめます。それができればこの辺りは観光農園道路と呼ばれるようになり、年中人が訪れ、活気ある地域になるのでは」と、思い至った。そこで観光農園として就農することにした。手がける作物はブルーベリー。岡田さんには食物アレルギーがありヒスタミン抑制効果の機能性に興味を持っていたことと、夏に収穫できることから選択した。

岡田孝幸さん
ブルーベリーはコンクリートの上で養液によるポット栽培

ブルーベリーの養液栽培で差別化し、加工品も

 しかし、今まで全く農業経験がない中で、簡単に観光農園のスタートが切れる訳ではなく、まずは福岡県のブルーベリー生産者のもとで、栽培方法の基礎を学んだ。そして、その方法に独自の栽培方法として養液栽培を取り入れ自分の農業をスタートさせた。「非農家から新規就農するにあたって、他の農家と同じようなやり方をしていたのでは、実績のない私は勝てないと思いました。それで大学時代に化学を専攻していたこともあり、養液栽培なら優位性があると思い、養液栽培の勉強をしました」。木の状態を観察し、養液の配合成分を調整しながらデータを管理することで、「自分なりの栽培ルールができあがってきました」。こうして、岡田さんなりのブルーベリー養液栽培を確立していった。また、観光農園としてブルーベリーが収穫できるまでは、ブルーベリーの栽培管理をしながら、造園業に携わって芝の管理を行い、稲作を学ぶために米作りの手伝いにも行った。「今まで農業経験が全くなかったので、農業を勉強する時間にあてました。農業を知る上で貴重な時間になりました」。

 会社を設立して1年後にブルーベリー観光農園をオープン。甘くて大粒と評価され、多くの来場者が訪れた。しかし、ブルーベリーだけでは観光農園として営業できるのが夏のみとなる。「お客様からこの農園で通年で食べられるものはないのかと聞かれることが増えてきました。それで何を食べたいのかを聞いてみると、一つはブルーベリーを通年食べたい。そして、もう一つがイチゴでした」。イチゴであれば1月から5月までの営業が可能となり、ブルーベリー同様、養液栽培による品質管理が行える。「お客様の要望を受けて、平成27年にイチゴの観光農園をオープンしました」。

 また、平行して6次産業化にも取り組み始め、ジャムやドリンクなどを開発した。「どんなジャムが売れるのかわからないので、色々な種類のジャムをつくりました。中には1万円のジャムもつくってみました。東京で販売する機会があった際、1万円のジャムが3つ売れました。マーケットを正しく判断できれば1万円のジャムでも売れるのだと解りました」。この経験から、「マーケットを見据えた商品作りと言うことを一番心がけるようになりました」。岡田さんが農業をする上でこのマーケットインの考えが大きな経営指針となった。

夏には観光農園として賑わう
平成27年にはイチゴの観光農園もオープン

輸出の第一歩は相手国を知ること

外国人技能実習生の評価が海外マーケット挑戦のきっかけに

 観光農園の規模を拡大し、6次産業化により国内の販売先も広がっていった。そして、次に取り組んだのが海外マーケットへの挑戦だ。「今まで外国人技能実習生を10名以上受け入れしてきましたが、その実習生たちが、このブルーベリーとイチゴをすごく美味しいと評価してくれました。国へ帰ったらブルーベリーやイチゴを作りたいとも話してくれます」。外国人技能実習生の話しから、自分たちの商品が海外マーケットで受け入れられるのではと考えた。しかし、海外で販売するにはどうすれば良いのか。アプローチの仕方がわからない。そこで、自分たちの商品を一度に知ってもらえる機会として、海外からのバイヤーが集まる商談会に参加した。「各国のバイヤーと話す中で、一番感触が良かったのが東南アジアの国々でした。それでまずはこれらの国々からチャレンジしてみようと思い、平成28年から輸出に取り組み始めました」。

     6次産業化商品

輸出先を絞り、その国を調べ、ニーズをくみとる 

 輸出先は台湾と香港、シンガポール。生の果実は難しく、ジャムやドリンク等の加工品からスタートした。「現地との直接取引ではなく商社を通した間接取引です。私達はFOB(Free on Board=本船渡し)だけです。初めての輸出は、1回出荷しただけで、その後の動きがなく売上としては30万円ほどでした」。かかった時間、経費を考えると、決して満足できる数字ではなかった。

 「そこで学んだことは、海外と一括りするのではなく、国ごとに攻め方を変えていかなければならないということでした」。ターゲットを絞り込んで、一つの文化や食習慣など、その国をどれだけ理解できるかが大事になってくると考え、相手国を台湾だけに絞った。「実際に台湾に何回も足を運んで、店舗に立って対面販売し、台湾の市場を見て回りました」。そして、台湾の消費者の声を聞き、現地バイヤーと打ち合わせを重ね、商品のラベルやパッケージ、味などを相手国に合わせて開発していった。また、バイヤーを日本に招き、農園の管理された生産現場を視察してもらった。その結果、「台湾の取引先が少しずつ、増えていきました。一昨年からは生のブルーベリー果実の輸出もはじめました」。また、昨年からは香港にも生のブルーベリー果実を輸出しはじめた。「海外と取引する上で大切なのは、相手国の市場ニーズに如何に合わせていくことができるかです。消費者のニーズを汲み取ってモノを売ることは、海外も国内も同じです」。マーケットインの考えが重要となる。

 いのさん農園は、平成30年にJGAPを取得し、岡田さん自身もGAP指導員の資格を取得。ASIAGAPの取得準備もできている。輸出先のルールや消費者が求めれば、グローバルGAPにも今後対応していく。現在海外取引での売上は300万円程。今後も海外からのニーズに対応して、更なる輸出拡大を目指している。

台湾には実際に足を何度も運び、店頭に立ち対面で販売、消費者の声を聞き商品を開発した。

農業のグローバル化で地域を活性化

農家民泊ともコラボし、インターナショナルフェスティバルを開催

 輸出の取り組みは、観光農園へのインバウンド消費取り込みにも繋がっている。「現地で私たちのジャムを食べて美味しかったと、台湾や香港からわざわざ観光農園に来られる方もいます」。また逆に、観光農園に来て、それがきっかけとなって自国でいのさん農園の商品を購入する人もいる。「そのためにも現地のバイヤーと連絡を密に取っています。どんなお客様が来られたか、バイヤーにも情報を送ります」。情報の共有が輸出の拡大や観光農園の集客に繋がっているようだ。

 国内外を問わず観光農園に足を運ぶ人が増えれば、地域の活性化にも繋がってくる。「観光農園や6次産業化、そして輸出への取り組みの原点は、この白山町を活性化して地域に貢献したいという思いからです」。そこで、外国人も利用する地域の農家民泊とコラボレーションし、昨年11月にインターナショナルフェスティバルを初の試みとして開催した。「私達の農園で受け入れている外国人技能実習生や外国人観光客、白山町の人々が触れ合える場所をつくろうとこのフェスティバルを開催しました。海外の人と日本人が一緒になってたき火をしたりキャンプをしたり音楽を聴いたりして交流を深めました」。このイベントが毎年開催されれば、農業を起点とした国際交流として地域の活性化にも繋がっていきそうだ。

インターナショナルフェスティバル

どこの国でつくったかではなく、誰がつくったかが評価される時代に

 岡田さんにこれからの展望を聞いてみた。「ブルーベリーもイチゴも、アジアでは台湾や中国、韓国等で生産されています。食べ比べてみると味は確実に日本産が美味しいと思います。しかしこれからは、日本産だからとか海外産だからとかはなくなってくると思います」。今はメイドインジャパンであれば市場で高い評価を受けることができる。しかし、栽培技術もまたグローバル化し、進化していく。「工夫や努力を重ねて市場ニーズに合わせたブルーベリーやイチゴを作ることは、日本人にしかできないというわけではありません。これからはどこの国でつくったかではなく、それ以上に誰がつくったか、個々の生産者が評価される時代になってくると思います」。

 今、岡田さんはフィリピンでイチゴの栽培指導を行っている。今後インドネシアでもブルーベリーとイチゴの栽培指導を行っていきたいと考えている。現地の生産者と提携し、フィリピンやインドネシアで、日本産と変わらぬ品質のブルーベリーやイチゴが生産できれば、その国で高い支持を得る可能性が高い。また、生産地の地域活性化にも繋がるだろう。  常に前を見て挑戦する姿に、世界に目を向け農業を他の産業と変わらぬものにしていきたいとする、若き農業経営者の強い意志を感じた。

フィリピンでイチゴの栽培指導に加え、今後インドネシアでもブルーベリーとイチゴの栽培指導を行っていきたいと考えている
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