時間を気にしなくていいからこそ楽しめるものがあって、例えばジグソーパズルなどもそう。でもタイムリミットがあるのなら話は別。なかなか心穏やかには臨めない。まして必ずやり遂げねばならないなんてことになれば、もう大きなストレスだ。それはちょっと農業の繁忙期に似ている。稲作なら、育苗の開始を合図に、ジグソーパズルのピースがばらまかれ、それを毎年違う気候、生産環境の中で制限時間内にはめ込んでいかなければならない。
今回お訪ねしたのは稲作に加え麦作にも力を入れる生産者で、スケジュールはさらにタイト。その取り組みの中、新しい方法が頼もしい味方になり、ササキコーポレーションの超耕速シリーズも期待される役割を果たしている。
主力は一人、麦の拡大で農業持続
埼玉県の川島町は標高差のない平坦な土地に荒川などの豊かな河川が流れ、古くからのお米の産地。そこで稲作19ha、麦作38haを経営しているのが株式会社沼田ファームだ。代表取締役は沼田勝利さん(54歳)。春作業を中心に生産現場の取り組みを聞いた。
労働力は家族が中心で、現場作業では沼田さん一人の力に負うところが大きい。その中で「地域では高齢化により受け手を探している田んぼもありますが、稲作の規模は拡大せずに、麦を増やしたいと思っています」。今の沼田さんの生産環境の中で農業を持続する一つの選択だ。
水田は6ha程を一塊として、3ヵ所に集約し、そこに井戸を自ら敷設して、水管理を行い、夏場の高温対策としても活用している。ただ今年のお米のできは「夏の暑さで高温障害が出て、乳白粒が多くでました」。沼田さんの所では稲の刈り始めが8月20日ぐらいとなり、登熟期の高温で大きな影響を受けた。栽培する品種は、コシヒカリを主に、彩のかがやきも栽培する。
小麦の収穫に間に合わせるために春が過密に
販路は地域の農協と個人契約で、農協出荷分は有機・減農薬の特別栽培米となっている。“川越藩のお蔵米”としてブランディングされ、直売所などで販売されている。
「もし新たに田んぼを預かるとなると、これまで集積した所から離れた場所になってしまいます」。水管理のことなども考えて拡大するという選択肢はないようだ。一方で麦については拡大の方向を模索している。荒川の河川敷で大規模な小麦生産が行われており、沼田さんもそこの畑地で栽培している。「小麦は播いたあとの管理が楽なのですが、価格が安いので、それを補うためには多くの量を手がける必要があります」。
その農業を展開するため、春の作業が過密になっていく。小麦の収穫は6月半ばから行われるが、そこから逆算して稲作がスタートする。3月のお彼岸ぐらいから育苗が始まり、それと合わせてあぜ塗りも開始。4月半ばから代かき、4月下旬から田植え、そして6月上旬には完了しなければならない。
この過密な作業を少しでも軽減するために2年ほど前に取り入れたのが、“べんがらモリブデン直播栽培”。モリブデン化合物をコーティングした種籾を代かき後に播種する湛水直播で、「種籾は泥に埋まって鳥害も少なく、資材費も手頃です。今年は反収で7俵の収穫で、移植と遜色がありません。根張りも良いようです」。この他にも、育苗ハウスが必要なく、コーティングしても熱を持たず、つくり置きができ、種籾も傷めないなどメリットは多い。
時間と手間をかけず、負担軽減と効率作業で麦作に余力
作業の効率面ではササキコーポレーションの超耕速シリーズ、代かき機マックスハローエースMAX443HAとリバースあぜぬり機カドヌールエースKA530DXが貢献している。マックスハローエースは今年3年目で、88PSのトラクタに取り付けて使用している。「他の生産者が使っているのを見て、その仕上がりの良さが気に入って購入しました。実際に使ってみてもすき込む力が強くて、浮き藁がありません」。
沼田さんの代かきの方法はトラクタを田んぼに入れるのは1度だけで、4回代かきをして仕上げる。以前の機種でも同じ方法だったが、「爪が独自の構造で、藁がしっかり埋め込まれ、仕上がりが違います」。作業速度は4㎞/hほど。
減農薬や直播に取り組む中で、代かきが充分でないと、草刈り作業が大変になる。目の前の作業効率だけでなく、後々の作業量も減らすことに繋がる。
実際の作業では、午前中に田植えを行い、午後から代かき。それを約1haづつ一人で繰り返していく。作業の負担を軽減するためには、できるだけ手間をかけずに満足いく仕上がりにする必要があり、砕土性、反転性、すき込み性を高めるCK爪や泥の流れを内側に変えるフロントウェーブガード、タイヤ跡を消すダブルワイパーブレードが作業品質を高める。「代かきのトラクタは畑でも使うので、幅広のタイヤになっていますが、泥が戻ってきて走行の跡が残りません」。現在4回で代かきを行っているが「3回でも良いかもしれない」とうのが実感だ。そうなれば燃料費の節約にもなる。
あぜぬり機に関しては、以前からササキコーポレーションのものを使用している。「階段状にカットした元あぜが新あぜを支える仕組みが気に入って購入しました」。5年前には新型のカドヌールKA530DXを導入。1.5㎞/hほどの作業スピードであぜを塗っている。「乾き気味でも、あぜが塗れるので、天候を気にせず作業ができます。別の作業終わりに時間があれば塗りにいけます」と作業の自由度が高い。余裕をもって麦作に向かいたいという思いで春の作業が進められていて、その中、負担軽減と効率作業に貢献している。
農業を取り巻く環境が目まぐるしく変わる中で、農業の持続と成長を図っていくためには、意欲と共に助けとなる味方が必要だ。その一角で超耕速シリーズが役割を担っていた。
Point:麦作に力を入れ、春作業がより過密になっていくが、高速作業と確かな作業性で、労働負担を軽減し、効率化でスケジュールに余裕をつくる。
ここが一押し:藁などの埋め込み性が高く、ストレスのない効率作業を実現