農業の高齢化が止まらない。その中、農地の受け皿として担い手への期待も高まるが、過度な集積は農村がそれまで持っていた景色を変えることにもなる。農村の活力の源は農業を営む人々にあり、その人たちが農地を預け農業から距離を置くということは、地域社会への参加も減っていくということになる。多くの生産者が楽しく農業に携わっている姿こそ地域の活力に繋がる。
そこで注目されるのが定年就農者だ。農村の活力を守りつつ地域農業を盛り上げる存在として期待される。そこに農業機械が果たす貢献も少なくない。そんな役割を務める68歳の定年就農者が今年導入したのがニプロのあぜぬり機AUZ355C。生産効率の向上、省力化で大きな力になっている。
農機販売店を定年退職し、地域農業に取り組む
今回お訪ねしたのは新潟市西蒲区の水田地帯。そこでお米13haを経営しているのが伴孝行さん(68歳)。元々は地域の農機販売店に勤め、機械の販売や修理で地域農業をサポートしてきたが、長年の付き合いがあった顧客が高齢となり、それを引き継ぐことになった。「稲刈りの最中に、何度も電話をかけてきて、ここの具合が悪い、ここが困ったと仰ってね。それで色々事情を聞いて、来年はできないだろうと言うので、それならば私がやりましょうかということで始めました」。農家になって5年目、会社も定年退職し、地域農業に取り組む。
手掛けるお米はコシヒカリが約8割。労働力は伴さんに加えて、農繁期に人を雇用。生産効率の向上、省力化を図りながら、生み出された時間は管理に使い、「田んぼが始まれば一日中田んぼのことに手を尽くす」。圃場は100枚を超え、1日の見回りは40㎞にも達する。周囲の人からは働き過ぎだと思われているようだ。
農業を始めたとき、「田植機で苗を植えれば、秋になると、周囲の農家と同じぐらいには収穫できると思っていましたが、とんでもなかったですね」。お米づくりは簡単なことじゃなかった。高温の年には7俵ぐらいしか収穫できず泣く思いもした。また出来具合は単に収量だけの問題ではなく、生育状況にも差が出ていた。「稲をよく知っている人は茎と葉を少なくして穂を育てることができますが、私なんかは藁ばかりになってしまいます」。そこには外から見えなかった知恵や技術があり、一年一年を積み上げることの重要さを実感している。その中、従来とは異なる栽培方法のチャレンジやカルパーコーティングの湛水直播も計画している。
地域農業を守るための奮闘が続く。その営みを続けるために大きな力になっているのが農業機械だ。作業効率を向上させ、労働負荷を減らし、様々な取り組みへの余力を生み出す。その中で導入したのがニプロのあぜぬり機AUZ355NJC-0S。
「直進性が抜群だよ。真っ直ぐ綺麗なあぜが塗れる」
今シーズンから使い始め、既に9haの圃場で使用している。同機を選択した理由の一つは形状。「作業機の取り付けヒッチから、あぜ塗り部のディスクまでの距離が短く、塗り残しを少なくできます」。伴さんのあぜ塗り作業では作業効率重視で角を塗らないため、短ければ短いほど補助作業が少なくなる。作業性では、前シーズンまで使っていたあぜぬり機に比べ、「直進性が良い。抜群だよ。以前の機械は常に作業機にプレッシャーがあってフロントがややあぜに向く形で作業していたけど、この機械は殆ど前を向いた状態で綺麗に真っ直ぐにあぜが塗れる」とのことで作業は随分楽になっているようだ。
できたあぜは「硬く締まっていて、長靴で歩いても跡が残らない」。同機ではディスクの回転数が見直され、上面をかためるスパイラルローラーが段付きで、上端の肩部が面取り形状となり、これまで締まりにくかった肩部、上面部の硬度がアップしている。また元あぜを削るロータリーにはアップカット方式が採用され、爪配列の最適化で作業時の振動軽減と土量アップを図り、崩れにくいあぜとなっている。
1日に10aを30枚、速くて綺麗
同機にはクラッチ付ジョイントが標準装備され、石などの障害物から機体を守ると同時に、再始動もトラクタから降りることなく行える。「これはもう最高。田んぼによっては流木みたいなものにゴツンと当たることがあるからね」。より効率的な作業に繋がる。操作はユニフィットスマートコントロールを採用。オフセット量が手元の操作で調整でき、作業機の目盛りを目視で確認する必要が無い。「選択した作業位置でピタッと止まって、いちいち合わせる必要がなく、便利な機能だと思います」。圃場の状況に合わせて、作業機を最適な距離に、手間無くセッティングでき、作業品質を高める。さらに伴さんは、オプションの散水装置を装備。「この辺りは湿田でディスクに土が付着し、あぜがうまく塗れないことがありますが、水を散水することで、土に対する適応性が抜群に良くなった」。
新しく導入したあぜぬり機により、1日8時間で10a圃場を30枚ほど塗れる。「前の機械に比べて、速く綺麗な仕上がりです」。あぜを塗ることは大きなメリットがあるという伴さん。「次の草が生えてくるまで、約1月かかり、草刈りをする手間も省いていることになります」。速くて丁寧な作業が全体的な作業効率の向上に繋がっている。
Point:ジョイント部からディスクまでが短く、塗り残しが少ない。また直進性が高く、真っ直ぐ綺麗なあぜが塗れる。
ここが一押し:新機能であぜの硬度がアップし硬く締まって崩れにくい。
夢を与えられる農業を行い、農業の楽しさを伝える
伴さんの地域農業に対する想いは「今の水田を維持していきたいと思っています」。気を抜けばもの凄いスピードで耕作放棄地が広がると危機感を持っている。ただ伴さんが一人で多くの水田を管理すると言うのではなく、願いは適度な面積の担い手が増えていくこと。
そのためにも「夢を与えられるような農業を行いながら、農業は楽しいということを伝えていく必要があります」。作物をつくることは楽しいと言う伴さん。田植えの後、収穫の時、「その喜びはなんとも言えないよ」。そこに地域農業を持続する大きな鍵がある。そんな農業の中で農業機械が大きな役割を果たしていた。