春収穫の地域特産タマネギを増やして異常気象に対応し、産地間の競争力にも 取材先:JAあいち中央碧南玉葱部会 小笠原 諭部会長

アグリソリューション

  「今年の夏はいつもと違う」。そんな言葉が毎年のように聞かれるようになってきた。世界的にも異常気象が頻発し、猛暑が街を襲い、北極圏の氷が溶け、山火事が相次いでいる。また、ただ気温が高いというだけではなく、国内では、線状降水帯による大雨や、場所によっては日照りが続き、水不足を招いているところもある。作物にとっても生産者にとっても過酷な状況が続く

  これまで経験してきたことのないような状況を前にして、“お天道様には逆らえない”と諦めてしまう生産者も少なくない。しかし、食の供給を止めるわけにはいかない。農業の生産現場は待ったなしだ。その場しのぎの対処療法であっても、目の前の問題に挑む現場力を発揮しながら、何とか環境の変化に対応していかなければ、農業の持続はかなわない。野菜産地の現状を追った。(記事内の数値・状況は2019年10月現在)

市場環境に対応して農産物を進化

砂壌土に適した作物として大正の頃からニンジンを栽培

 愛知県碧南市は知多半島の右隣、西三河の南部に位置する。畑地は海にも近く、矢作川下流にあって、砂壌土。この地に適した作物として大正の頃からニンジンの栽培が行われてきた。また昭和35年ぐらいからタマネギの栽培が始まり、共に中京圏に食を供給する産地として確固たる地位を築いてきた。ただそれは平坦な道のりではなかった。現在でもそうだが、ライバルがあり、消費者の嗜好、市場環境の変化があり、それぞれに対応していく道のりでもあった。同地でニンジン・タマネギを生産しJAあいち中央碧南玉葱部会の部会長を務める小笠原諭さん(50歳)に話を聞いた。

 「露地野菜ではタマネギとニンジンがメインの産地です。その間に、ダイコンやサツマイモ、昔は甘藷の作付けが多くありましたが、少なくなってきました。最近ではトウモロコシや落花生などが流行ってきています」。産地全体で直近の生産実績を見ると、ニンジンは、昨年の台風で大きな被害を受けたが、150haの作付けで出荷量が6372t、販売金額は5.5億円。タマネギは105haの作付けで出荷量が8903t、販売金額が6.54億円となっている。小笠原さんの経営は、ニンジン2.5ha、タマネギ2.3haを中心に、スイートコーンやホウレンソウなども手掛けている。労働力は本人、奥さん、両親、パートさんが1人。「昔はもう少し大きな経営規模でしたが、両親も歳を取り、あまり条件が良くない畑は返しました」。小笠原さんには中学生の息子がいるが、農業を継ぐかどうかは今の所未定。「農業を継いで欲しいとは言っていますが、やりたくなければやらなくても良い」。地域全体としては若手が多い地域だが、以前に比べると新規就農者の数も減ってきている。

小笠原さん
へきなんサラダたまねぎ

独特の臭みがなく甘みが強い“へきなん美人”を市場展開 

 そんな地域で最近存在感を増しているのはタマネギだが、元々はニンジンの産地。ニンジンは大正時代から栽培されてきたが、面積、生産量ともに大幅に増加したのは昭和30年代に土地改良整備が行われてから。土地に合った“碧南鮮紅5寸人参”を育種し、昭和42年には国の冬人参指定産地として認められ、愛知の伝統野菜にも登録された。しかし、平成に入る頃から流通形態が変わり、量販店での販売が増えるにつれて長さが不揃いなこの地のニンジンが敬遠されるようになった。

 その打開策として登場したのが地元の篤農家と種苗会社を中心にJAが協力して開発された、F1品種の“碧南美人”。姿、形が良く、鮮やかな紅色で独特の臭みがなく甘みが強い。「生で食べてもらえると良さが分かってもらえる。ジュースにして飲んでもらうと砂糖が入っているのではないかと言われるぐらいです」。平成16年に“へきなん美人”のブランド名で市場展開が始まり、中京・北陸地域に出荷し、評価も高い。消費者の嗜好や市場環境の変化を捉え、それに柔軟に対応することで産地を形成し、生き残りを図り、今に至っている。お盆過ぎから播種を始めて、11月中旬から春先の3月上旬まで収穫する。冬の寒い季節は更にニンジンの甘みが増す。

ニンジンの畑

サラダたまねぎで他産地と差別化

春の早生品種で生で食べることができ、病気も少ない

 そのニンジンを追いかけるようにして始まったのがタマネギの栽培。昭和35年から2haほどの面積で始まったが、「急に増えだしたのは30年ぐらい前からです。それ以前はタマネギを作らず、造園業や土建業などにアルバイトに行くのが当たり前でした」。ニンジンの産地ではあったが、それだけでは十分な収入にはならず、また播種時期は台風が日本に来る時期とも重なり、単一の作物に頼るリスクは大きい。そんなこともあり甘藷の栽培なども行われてきたが、「十分な利益にはならなかった」。そんな中、タマネギを作ってみると手応えがあり、「他の仕事に行かなくなりました」。

 中京圏の人口が密集した消費地に受け入れられるようになり、産地としての地位を上げていった。「平成15年頃まではゴールデンウィーク明けから6月いっぱいまでの2ヵ月弱ぐらいしか出荷していませんでした」。しかし1戸当たりの栽培面積が広がるに連れ、最近では3月中旬からの出荷も行われている。苗の移植はマルチをかけた畦に1列10本を手作業で植えていく。「地域の作付面積が他の大きな産地に比べると圧倒的に狭いので、一枚の畑からできるだけ多くの収量を上げるような栽培体系をとっていかなければ儲かりません」。

 その上で、他産地との競争がある。周囲には静岡産があり、高品質な淡路産や巨大供給地の北海道産も碧南産が市場とするところに出回ってくる。その中で選ばれるタマネギとして存在感を発揮していかなければ、生き残っていけない。そこで他産地と差別化が図れるものとして登場してきたのが“へきなんサラダたまねぎ”だ。「みずみずしくて辛味が少ないので、水にさらさずそのままサラダで食べることができます」。3月の中・下旬から4月の下旬まで出荷する早生もので、食味の良い期待の品種だ。5年ほど前から試験的な栽培が始まり、本格販売は昨年からで、今年2回目のシーズンを終えた。「苗もしっかりし、定植した時の病気の発生も少なく、収穫したものの首の締まり、玉の締まりも良く、形も整っています。すごく良い品種で、今、どんどん広がっています」。単価も良く生産者の意欲も高い。また一般的なタマネギは、20kgを1単位としてネット出荷しているが、サラダたまねぎは10㎏を1単位とした箱詰め出荷。「ここでも高齢化が進み、70歳くらいの人でもまだまだ現役なのですが、そういう人たちでも20kgは重いという話が出ていて、10kgの箱詰め出荷は嬉しい」。労働負荷の軽減にもなる。

 瑞々しくて新鮮な早生ものを提供するということは、生産地と消費地が近いからこそできることで、貯蔵品とは明確に異なり、遠隔地にある供給力の大きな産地との差別化に繋がる。「私たちは小さな産地ですが、比較的温暖な地域特性と消費地への近さを活かして早生もののサラダたまねぎを積極的に作り、もっともっと宣伝して売っていくべきではないかなと思っています」。JAでは碧南市、商工会議所との連携事業で、市内飲食店の協賛を得てサラダたまねぎを使ったメニューを展開している。また、交通安全市民運動に協賛し、道行く車に交通安全を呼びかけると共にサラダたまねぎの配布を行うなどのプロモーション活動を行い、認知度の向上を図っている。

サラダたまねぎの即売会
交通安全を呼びかけサラダたまねぎを手渡す

春収穫を増やして異常気象のリスクに備える

 またサラダたまねぎは異常気象への備えにも繋がっている。タマネギ栽培では通常マルチを使っているが、近年の高温傾向もあって「6月に出荷するタマネギは、マルチの中が高温になって煮えてしまい、腐ってしまって売り物にならないものが出ます。私の所ではマルチで栽培するのは6月10日ぐらいまでです。それ以降のものは露地で栽培するか、早めに切り上げるかです」。

 それに比べ春にできるサラダたまねぎはマルチの中で煮えるということはなく、この時期のものを充実させれば高温で損なわれる品物を補うことにもなりそうだ。また、この新品種がタマネギ栽培そのものの活性化に繋がれば、台風のリスクに晒されるニンジンの備えにもなる。季節を異にして複合的に野菜を生産する産地の強さでもある。

複合的に野菜を生産し台風のリスクに備える

連携することで“荒ぶる自然”に対応

台風に備え播き直し用の種を用意するもコスト増に

 温暖化の影響で台風が大型化しやすくなっているが、昨年この地域は3つの台風に襲われた。その中の一つが、関西国際空港の連絡橋とタンカーの衝突を招いた大型台風21号。記録的な暴風を伴い各地で大きな被害をもたらし、農業への被害も甚大となった。地域では台風の接近を知り、成育中のニンジン畑に寒冷紗をかける作業を急いで行ったが、「1日やっても、5反かけるのが精一杯です。それにどこの家も栽培面積の半分を覆うことができる程度しか寒冷紗を用意していません」。その時のニンジンはお盆過ぎからの播種も終え、一番早くに播いた人でも間引きが始まる前で、ようやく背丈が10cmぐらいになった頃合い。「猛烈な風と塩害に襲われ寒冷紗をかぶせた畑以外は全滅です。一本も残りませんでした」。その後、種の播き直しを行ったが、寒冷紗をかけた所でも成長が遅れたり、結局、「収量的には4割減、収入にすると5割減になりました」。

 台風のリスクは毎年あり、小笠原さんは「播き直し用に種を余分に持っています。この辺りはそういう人も多いと思ますよ。播き直そうにも地域にストックがなかったということも過去に経験していますので」。事前に備えることで、リスクの最小化に努めている。ただそれは生産コストを押し上げることにもなっている。被害が出た後に種を購入する場合、公的な補償制度が適用されるが、事前に用意していた分は対象外。用意周到であることで損をするような事態になっている。自然災害の前では等しく被害者であると思うのだが。

手間は掛かるが、高い品質で期待がかかるサラダたまねぎ
間引き前のニンジン

複数の作物を手がけ、作期を分散しリスクを軽減する

 異常気象の影響は台風の大型化以外にもあり、今年はいつまでも梅雨が続き、その後は猛暑となった。その中、ニンジンに例年にないような症状が出ている。「根の成長が止まっています」。またタマネギは昨年の暖冬で「成長が進み、中分球という奇形が増え、規格外品が多く出ました」。  荒ぶる自然に対応するたった一つの方法など存在しない。その脅威の前では為す術のない事の方が多い。特に露地栽培ではそうだ。その都度対処し、または諦め、あるいは一からやり直す。その繰り返しだが、たった一つの作物に頼らず、リスクを分散していくのは有効な方法に違いない。ニンジンは、台風のリスクがあるけれど、ブランド力があり機械化も進み作業効率は高い。

 一方タマネギは台風の影響は受けないけれど、移植は手作業で機械化は試行錯誤中。サラダたまねぎでは、収穫も手作業。しかしお互いが補うことで産地が持続していく力になっていく。またこの地で野菜作りを担う農家はJAや普及所との連携も強く、「こういう人たちがいるから碧南はやってこられたのです」。大きなリスクも互いに協力することで受け止めようとしている。またもし後継者が入ってくるのなら、世代を継いでリスクと向き合うことができる。今、異常気象を含めた、様々な環境変化があり、その大きな力の前に個人ではあまりにも小さい。手を結び、連携することで前に進む道を探る。明日に続く産地の一つの姿がそこにあった。

タマネギの機械移植を模索中
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