トップブランドの挑戦!「クラウンメロンの名前を世界へ」  取材先:静岡県温室農業協同組合 クラウンメロン支所

アグリソリューション

  将来の夢は何か。子供たちに聞くと様々な夢があって、プロスポーツ選手、ゲームクリエイター、歌手や女優、デザイナー、最近はYouTuberなど。夢を語れるのは成長する余地があるからであって、若さが今とは違う何かになれる可能性を生み出している。では逆に、夢を語れないようでは成長なんて叶わない、とも言えそうだ。

  つまり農業を成長産業にするということは、安易に若さに頼れない我々だが、夢を語ることができるということだ。弊誌2018年の年間特集は「さぁ今こそ、夢のある農業を語ろうじゃないか!」。農業を成長産業にしようと各地様々な取り組みを行い、今とは違うものに変わろうとしている。そこでは、 単に大きさを求めるのではなく、多様な取り組みを取り入れて質を変え、進化していこうとする動きも目立つ。将来を見据え戦略を持って改革を進めるトップブランドの挑戦を追う。(記事中の数値・状況は2018年4月現在)

トップブランドの存在感

ブランドフルーツは群雄割拠

 百貨店の果物コーナーや高級フルーツショップの少し高いところの棚で、見目麗しい姿を見せて鎮座しているのがクラウンメロン。一般にマスクメロンと呼ばれるアールス・フェボリット種のメロンに付けられたブランド名だが、クラウンは王冠であり、置かれたそこはさながら玉座とも言えそうだ。東京日本橋の高級フルーツショップ千疋屋では1玉2万円を超える値段が付いている。今、日本では様々なブランドフルーツが群雄割拠の状態となっているが、その中でも一際大きな存在感を放っている。

 そのクラウンメロンの生産地が静岡県の袋井市近辺。気候温暖で肥沃な土地と豊かな清流を有する静岡県西部、天竜川以東の地域で、袋井市、磐田市、掛川市、森町にわたって、年間を通じたメロン栽培が行われている。その中で大きな役割を果たしているのが静岡県温室農業協同組合クラウンメロン支所。「メロンに特化した生産組合で、組合員が209名、年間の出荷量が32万ケース(1ケース6個)、1日1000ケース前後を市場に送り出しています」と、支所長の中條文義さん(60歳)。現状とこれからを伺った。

支所長の中條さん
クラウンメロン支所 左にあるメロンを象った丸屋根が特徴的
クラウンメロン

静岡の温室メロンは日本一の生産量

 静岡県の温室メロンの生産は作付面積、生産量、出荷額とも日本一。特にクラウンメロンなどはブランド農産物として高い単価で取引され、生産者の意欲も高い。それ故にブランド化に成功し確固たる地位を築き何の憂いもない産地かとも思えるが、決して順風ばかりが吹いているわけではない。ある部分は大きな成功を収めているが、状況は変化してやまない。「日本が経済成長を果たし景気が上がると共にどんどん生産量が増え、組合員は最大で800人ぐらいになりました。

 しかし、バブル経済が崩壊し、リーマンショックがあり、日本の景気が下降していくと共に消費が縮小していきました。また温室を使った周年栽培で冬場の10月~4月まで加温のために燃料が必要なのですが、原油価格の高騰があり、メロンの価格は下がるのに経費は上がるといった状態が10年ぐらい続きました。その間農業を辞めてしまったり、経費のかからない農産物に移った人などがいて、結局今は組合員が200名ぐらいです」。このまま現状に流されていけば、どこに辿り着くのか。その先を想像することはそんなに難しいことではない。“何かを変えていかなければならない”。生産者の胸に通奏低音として響いていく。そうしなければクラウンを戴き続けることが難しくなる。

メロンの適地で栽培が拡大

 日本にメロンが伝わったのは1900年(明治33年)のことで、イギリスからやって来た。大隈重信公も普及に力を入れ、新宿御苑の私邸で栽培し、そこで第1回のマスクメロン品評会も開催している。その後、日本各地にメロン栽培が広がっていった。袋井市でも1921年から温室メロン栽培が始まり、今年で97年になる。産地として残り続けてこられたのは「気候や土壌が向いていたのだと思います。施設を使った周年栽培のため冬の気温や日当たりが重要になります。このあたりは日射量も多い」。適地が農産物を育んでいった。

 クラウンメロン支所としては、1964年に前身の磐田温室農協丸静支所ができ、クラウンメロンとしての販売が始まり、専門農協として生産者と密着した取り組みが行われてきた。現在は「毎朝生産者が支所にメロンを持ってきて、等級を1箱1箱検査し、取引のある13の市場へ出荷します」。等級は最高ランクの富士から山、白、雪の4段階と加工用などに回されるキズ、規格外品。最高ランクの富士は全体の0.1%しかない。市場は、東の宇都宮から西の北九州の小倉まで。毎朝9時から10時の間に、相場を見ながらどの市場にどれだけ送るのかを決めるのが重要な仕事となっている。

地域ではハウスが建ち並ぶ
支所の看板
集出荷施設 毎朝ここから荷物が市場に向けて発送される

 支所長の中條さんは40年以上メロン作りに携わってきた生産者でもある。「組合員のメロンの値段が少しでも良くなるように」と、当事者感覚を持って、毎朝真剣勝負が繰り広げられる。「組合員の中から、誰か1人、常勤の支所長をしなければならないのが組合の決まりで、2年前に支所長になりました。学校を卒業して初のサラリーマン。うちのメロン栽培は息子がやってくれています」。11棟の温室を展開する地域でも規模の大きな生産者だが、今は支所長としての仕事に専心している。

強いブランドを維持する力

独自の品種、特徴的な温室、こだわりの栽培方法

 クラウンメロンが高い競争力を持つ背景には、その味を支える特徴的な栽培方法がある。その一つは独自開発したオリジナルの種を使っていること。種苗会社のものではなく、「この支所の裏にハウスがあって、美味しいものと見た目が綺麗なものを何回もかけ合わせ、バランスの良い物を研究し、生産者に提供しています」。たやすく真似ができない唯一無二のものが作られていく。

 二つ目はスリークォーター型と呼ばれる特徴的なガラス温室を使用していること。「南を向いた面が大きくなっていて、太陽高度の低くなる冬場の太陽光が沢山入るようになっています」。メロンは必要な温度が25℃ぐらいまでになる作物で、太陽光を無駄にしない工夫がされている。また、どのメロンの葉にも光がよく当たるように栽培ベッドが階段状になっており、北にいくほど高くなっている。

 三つ目は栽培ベッドが地面から切り離されていること。「地面に直接植えると、水の吸い上げは植物次第ということになり、水分が多くて味がのらなかったり、少なくて玉の肥大が悪くなったりします。毎日、手でかける水によって調節をして、どんな季節でも同じようなメロンが収穫できるようにしています。水のコントロールが栽培の一番のポイントです。しかし一番難しい。個人の感覚と経験が問われます」。自然任せにしないこと。そこに生産者の力量が問われる。

独自開発のオリジナル品種
特徴的なガラス温室
地面から切り離された栽培ベッド

名が通れば高級店から指名買いも

 この力量の差は価格にも反映していく。「私たちは共同出荷していますが市場では個人別に競り落とされる個選を採用していますので、同じ等級で同じ大きさでも、それまで生産者個人が培ってきた信用などにより価格は倍ほど違うこともあります。それがやりがいにもなります」。

 クラウンメロンの生産者にはそれぞれ生産者番号が割り振られ、検査に合格したメロンには1個1個、生産者番号が入ったクラウンメロンマークが貼られる。その番号はクラウンメロン支所のホームページから生産者の名前を確認することができる。常に高品質のメロンを作る生産者として名が通るようになれば、高級フルーツショップから高値で指名買いされるようにもなる。それが生産者の誇りでもあり、1つの目指すところでもある。

 「私も若い頃東京などに行くと、日本橋の千疋屋に行って、棚の上に飾ってあるメロンを見に行きました。シールを見て誰が作ったかを確認し、自分もいつかはここにと思い、飾ってもらえればようやくここまで来たかと。多くはそこが目標だと思いますよ」。その思いがブランド力を高め、トップの座を守り続けていくことに繋がる。

力量の差が価格に反映していく
生産者の名が通れば高級店に指名買いされる

事業戦略を立てて、組合を進化させる

80歳までは現役で頑張ろう

 しかし「ピーク時に110億円あった出荷額は大きく減少し、景気の回復と共に3年ぐらい前から下げ止まり、横ばいから少し上がる状態にはなりましたが、今や34億円程」。単価にしても国内消費が縮小する中で「少し荷が増えると必ず安くなる」と、楽観できる状況ではない。生産者も高齢化が進み、現在の209名が、15年後に122名、20年後に85名になると予測している。

 以前は相場の動きに一喜一憂し、高く売れればそれで良いという感じだったが、「自分たちの手で何とかしていく道を探らなければならない」と、戦略を持った事業展開に踏み出し、高齢農家のやる気を引き出す対策、クラウンメロンの地元定着、海外輸出拡大、加工品拡大などに取り組んでいる。

 高齢農家に対しては「辞める人を減らすために80歳までみんな現役で頑張ろうということで、80歳以上の生産者を表彰しています。メロン栽培で家を維持し、子どもを育て、一生メロンで生活できればそんな素晴らしいことはないと思っています」。地元への定着としては、それまで大消費地に向いていた目を地元にも向け、毎月6日を“クラウンメロンの日”として、地元の人にも購入しやすい価格で提供し、地域特産物としての認知度向上を図っている。

海外に目を向けて販路を拡大

 そして大きな柱となるのが輸出対策。「お中元やお歳暮など、ギフト時期の価格は良いのですが、それ以外の時の消費の落ち込みが大きく、これを何とかしたいと思って始めました」。4年前から準備を進め、3年前に初めて海外へ。その年はタイのバンコク、マレーシア。昨年は香港、台湾へ。「最初海外に行った時は、なぜこんなに高いのかと説明を求められ、それに答えるのが大変でした。現地の果物と価格を比べると桁が違います」。しかし実際に食べてもらい、現地の新聞やテレビで取り上げられ、タイでは王女に献上し、日本の最高級ブランドという認識をもってもらうPRを展開していった。

 その結果、「東南アジアでは2月の春節、9月の中秋節の時に大口需要が生まれ、その1カ月くらい前から、クラウンメロンをくださいという引き合いが増えています」。この時期は国内消費が落ち込む時期と重なり、海外で販売することが国内出荷量の調整ともなり、相場の安定を図ることに繋がっている。

 そして今年は、UAE(アラブ首長国連邦)のドバイ、アブダビへ。「向こうに行ったのは2月です。20ケースと加工品を持って行きました。アラブの人はこの味が分かってくれるのか、少し心配もしましたが、実際に食べると美味しいと喜んでいただき、舌はあまり変わらないなと安心しました。値段は輸送の航空運賃も加えて高価なものとなっていましたが、現地の富裕層はそれで良いよと買っていただき、良い感触を得ることができました」。UAEでは、「夏場の気温が50~60℃」、富裕層は暑さを避けて国外に出るため、売り時は冬場。国内における夏場のお中元の時期を外せ、冬場のお歳暮時期、東南アジアのイベント時期以外の落ち込み緩和に貢献することができる。

 プロモーション活動には工夫も必要なようで、富裕層は自分で買い物に出るわけではなく、日々の雑事は使用人に任せてしまう。まずは富裕層にクラウンメロンの名前を覚えてもらい、使用人の購入リストに載せてもらうよう働きかけることが必要なようだ。「アラブの人たちは会ったこともない人たちで、そんな所でも売ることができて、足がかりができれば、多分世界中、他の国でも売ることができるんじゃないかなと思っています」。まだ始まったばかりで量はそれほど多くはないが、世界へと向かう大きな可能性を秘めている。 

現地で行われたクラウンメロンの試食

グローバルGAPも取得し輸出の体制をつくる

 また輸出を進める上でクラウンメロン支所では若手を中心にグローバルGAPも取得した。「取得は大変でしたね。どうしてもみなさん農家ですから、良い作物を作ることだけを考えてしまう。収穫したメロンが商品であるという意識がなかなか持てませんでした。消費者が安全安心に食べることができるようにするために、様々な配慮をしていかなければなりません。その意識の違いを乗り越えることができれば、後はそんなに難しくありません」。輸出だけではなく、2020年には東京オリンピックもあり、国際基準を満たした農産物として、先々の展開が広がる。

 現在輸出は二通りの方法があって、一つは「東京、大阪の仲卸さんで輸出を担当している方と組んで展開し、生産者として海外に行って売り込みなどをしています」。従来から取引している国内13市場の延長という形だ。もう一つの方法は「昨年からなのですが、ここから直接輸出する動きを始めました。国内13市場とは別に海外部門をプラスした形です。そうすれば値段も量も全て自分たちで把握し出荷することができます。海外に販売できる組合に進化できればと思っています」。このやり方では日本のバイヤーと組み、輸出の手続きなどをしてもらい、そこから海外のバイヤーへ商品を送るという方法になる。「これから色々勉強してノウハウを蓄積し、組合機能を拡充していかなければならないと思っています。この組合を後世に繋げるためにも攻める側に回らなければ」。生き残っていくための危機感は強い。

アンケート調査を実施し、現地の要望を掴む

規格外品を加工に回し、下位等級品の単価を上げる

 力を入れていく事業戦略としては、加工品にも精力的に取り組んでいる。それまでは年間30tぐらいが規格外のものとして集められ、加工品などに回されていたが、昨年は200tを集め、ピューレなどを作り、「森永のクラウンメロンハイチュウやクラウンメロンアイスクリーム、クラウンメロンパンなどのお菓子の原料に使っていただいた」。加工品の販売売上が増加したことに加え、コンビニなどでお菓子のパッケージに印刷されているクラウンメロンの名前などを見る機会が増え、自分たちのメロンがこういう所にも利用されていると刺激になり栽培意欲の向上に繋がっている。また、年間200tの規格外品を市場から分離することは、「市場に出回っている一番下の等級の価格を引き上げることに繋がりました」。市場に出回るものは加工品用として引き取る値段以上のものとなり、全体の売上を向上させることになる。

 加工品の製造に関しては、これまで業者に頼んで作ってもらっていたが、「この組合で一次加工を行い、ストックし、販売していきたい」。今、ピューレなどは夏場に多く、年間を通して見れば量にムラがあり、量が少ないときに多くのオーダーが入ったりもする。それらに対応するためにも、自分たちで年間を通して加工品を全て供給できるような体制を模索している。一次加工場を作ることができれば、それは組合の直接の利益になり、この組合、施設を維持するための大きな下支えになる。組合からの直接輸出の利益も合わせれば、生産者が減少していく中にあっても販売手数料を増やすという安易な選択をすることなく、組合機能の維持を図ることに繋がる。

多様な加工品を展開

 これらの戦略に、トップブランドを守り続ける産地のこれからの姿が見えた。そしてそれは大きな夢も伴っている。「僕はメロンを作り続けてきて、中條さんのメロンが欲しいと言ってくれるように頑張ってきた。今度は海外で販売してクラウンメロンが欲しいよと世界中の人から言ってもらって、食べてもらうのが最大の夢。世界中の人がクラウンメロンを必要として欲しい」。世界がクランメロンを発見し、その魅力に気づく日も遠くないかもしれない。そうなれば世界から指名が来る生産者も現れるかもしれない。それは痛快だ。「死ぬまでにそうなれば良いな」。その夢が新たな成長の原動力となる。

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