荒ぶる自然に挑戦し、夏と闘いながらブランドすいかをつくる 取材先:山形県尾花沢市 すいか生産者 大山佳彦

アグリソリューション

  夏と言えば、出会いの予感とか、新しいことに挑戦するとか、楽しいことが待っているとか、何か素適なことが起こりそうだと肯定的なイメージがあるのだが、最近はそれに疑問を呈する向きも少なくないはずだ。災害級と前置きがつく異常高温、猛烈な豪雨と、荒ぶる自然の脅威に晒され、何か悪いことが起こりそうなと、夏のイメージが徐々に塗り替えられている。特に農業関係者にとってはそうだろう。まずは不安が先立つ、そんな季節となってきた。

  しかし心配だ、心配だと顔を伏せていても始まらない。農業を成長産業にする。その筋道を、農産物のブランド化で歩んでいるのなら、どんな生産環境になろうとも高品質を維持し、安定生産を続けることが必須。自然の恵みを受けながら、脅威には対応していかなければならない。夏に収穫最盛期を迎えるすいか栽培の現場で、その実際を探った。(記事内の数値・状況は2019年7月現在)

高品質の尾花沢すいかをつくる

夏すいかの出荷量は日本一

 8月27日、28日、山形県尾花沢市は祭りに染まる。毎年この日に開催されているのが『おばなざわ花笠まつり』で、市中では花笠踊りの大パレードが繰り広げられ、3000名を超える踊り手が豪快、華麗な伝統踊りを披露する。東北各地で行われてきた夏祭りの最後を締めくくるイベントで、まだまだ暑さは続くが、ようやく夏も終わると感じさせる。ちょうどその頃、同じように収穫シーズンの終わりを迎えているのが当地名産の尾花沢すいかだ。

 尾花沢市とその周辺の村山市、大石田町で生産されるすいかの総称で、山形県内のすいかでは9割以上の生産量となり、7月中旬から8月の出荷となる夏すいかの生産量では日本一。生産者の高い栽培技術と厳しい品質管理により、市場評価も高く、高品質ブランドとして知られている。栽培面積は約650ha、玉数にして約250万個が出荷される。

 その中、若手生産者の一人として、尾花沢市ですいか栽培に取り組んでいるのが大山佳彦さん(36歳)。「水稲5haとすいか2haに取り組んでいます。売上の主力はすいか栽培」。生産地は村山盆地にあって、冬は雪に覆われ、夏はフェーン現象の影響で北国とは思えない暑気にさらされる。また、「昼夜の寒暖の差が大きくて、糖度が出やすいですね。12~13度ほどにもなります」。自然の恵みを最大限活かした高品質なすいかづくりに精力を傾ける。

大山さん
尾花沢スイカ 夏の生産量日本一

昨年は大雨で水につかり、4反歩を破棄

稲の収穫が終われば、すいか畑の後片付けをして来年の準備が始まる。10月から11月頃に堆肥や土づくり資材を全面散布して耕耘。そしてマルチかけを行う。秋にマルチをかけると春先に早めに地温が高まり初期生育が早まる。この時、さらに近年行っているのが、サブソイラーをかけること。「水はけを良くする対策です。表面に水が溜まっても2時間くらいで抜けていくので、けっこう効果があると感じています。秋作業にひと手間増えるのですが、5年ぐらい前からやっています」。夏場のゲリラ豪雨などへの備えがこの時から始まっている。それでも昨年の8月には、「この辺りも大雨で水につかり、病気が発生し、4反歩ぐらいを廃棄しました。それなりに対策をしていてもやっぱり間に合わない所があります」。自然を相手に、そう簡単にはいかないようだ。

 マルチかけが終わればやがて雪の季節が到来する。積雪は3mを超す豪雪地帯。農作業はできず、大山さんは除雪作業などに行く。農地は雪の下だが、促成栽培でシーズン初めにすいかを出荷するハウスを10棟保有し、冬はまだ作物がない状態だが、雪でつぶれないように除雪作業を行わなければならない。ハウスがあれば、ゲリラ豪雨などの突発的で過激な気象から作物を守り、比較的穏やかな生育環境を提供し、管理がしやすいと多くのメリットがある。しかし、「病気などが発生すると一気に広がりますし、除雪の手間などもあり、これ以上増やすと維持の手間がかかってしまいます」。現在労働力は大山さん本人と父、母。そこまで手が回らないのが現状だ。

 2月後半からはハウスでの苗づくりが始まる。それが約40日。メインの品種は“祭りばやし777”。「生産者にとってはつくりやすい品種です。品質が高く中身の赤が鮮やかで、形はまん丸として良く、高い糖度を持ちながら食感はシャリシャリ系で、果肉がしっかりとしています」。またお盆過ぎからは“富士光”という品種に切り替えていく。肉質は締まり、明るい紅赤色で、こちらも糖度は高い。

 育苗が進めば、3月半ばぐらいから接木の作業が行われる。そして4月中旬ぐらいからいよいよ定植がスタート。すいか栽培が本格的に始まる。

シーズン始めのすいかを出荷するハウス
ハウス内で育つすいか

天気次第で生育は大きく左右される

5月の高温で全て植え直しになることもある

 「4月、5月、6月にかけて、収穫時期を見越しながら定植していきます」。その時の気温や雨の状況によって生育は大きく変わる。「カンカン照りの干ばつになって雨が少ないと大きな影響を受けます」。今年の5月下旬には気温が30度ぐらいになり、定植したものが枯れてしまった。「全て植え直しです。その時期にしては暑すぎたのです」。マルチをかけるときに合わせて潅水チューブも敷設し、これを通した水やりを行っているが、「雨が少ないと、いくら潅水チューブを使っても追いつきません」。天気次第でうまくいかないことが多い。「すいかは毎年勉強です」。

 大山さんは農業大学を卒業して20歳で就農。経験は16年ほどになるが、自然現象は千差万別。時々によって異なり、同じようなものはなく、作物に及ぼす影響は複雑だ。さらに最近は初めて観測されるような気象条件も頻発する。それぞれにいかに対応していくのか。まだまだ奥は深いようだ。

 露地では基本的にトンネル栽培が行われ、裾の開閉で温度管理を行っている。活着し、生育が進むと整枝作業が行われる。「一番大変な作業ですね。いらない蔓を切ったり揃えたり、花が付く前の作業で、この辺りに花を付けようとか、意図しながら作業します」。成長をコントロールする工程になり、生産者の思いが反映され、結果する玉数や玉の大きさにも関わってくる。

定植後間もないすいか
露地ではトンネル栽培が行われる

近年の以上高温は仕事を難しくしていく

 定植後40日たつと花が咲き、次は交配作業が行われる。「手作業で雄花を雌花につけていきます。きつい作業ですがそれをしないと実は付きません」。交配の時期に気温が上がると作業は難しくなる。「トンネル内が35度を超えてしまうと花粉の働きが急激に落ちてしまいます。トンネルを開けて換気し温度を調節することが重要です」。朝早くから作業し、適温での交配が心がけられているが、近年の異常高温が仕事を難しくしていく。

 玉の大きさは出荷する規格としてSから6Lまであり、売れ筋は3L、4L。量販店では、カットで売られることが多いが、それでも大玉は冷蔵庫に入れるスペースが無いと敬遠されてしまう。大山さんもニーズに合わせて「3L、4Lを狙っていますが、4L、5Lが多くなります。蔓に3個つけるところ、1個つかないことになると、残されたものが大きくなってしまいます」。天気次第ということもあって、なかなか予定した通りにいかない。

すいかの雌花
トンネルの裾を上げて温度を調節する

夏場の作業は体が第一

温暖化は生産にとってだけではなく、販売にも影響を及ぼす

 7月15日頃から大山さんは無加温のハウスでつくったすいかの出荷を始める。山形は7月からの出荷になるが、市場には4月頃から出回り始め、熊本県を皮切りに、千葉県、鳥取県、新潟県、長野県、山形県、北海道と各地がリレー出荷をはじめる。産出額は熊本県、千葉県、山形県の順番で3県合わせて全体の40%ほどになる。取引価額には波があり、「ギャンブルみたいで、良いときもあれば、悪い時もあります。最近は満足できる価格で売れています」。しかし、気温が35度などといった、高温になってくると売れ行きが悪くなる。「あまりに暑すぎると、消費者は、炭酸水やアイスクリームの方を買うようになります」。暑気払いとしての効用を得るための選択が変化してくる。7月、8月と最も暑い時期が出荷のピークとなる尾花沢すいかにとって、温暖化は生産にとってだけではなく、販売にも影響を及ぼしている。

 収穫作業は運搬車を畑の中まで入れ、手作業でバラ積みにしていく。真夏に重量のある農産物を扱う、労働負荷の大きな仕事となっているが、今のところ機械による収穫は難しい「熟れているすいかと、そうでないものが同じ圃場にありますので、一斉に収穫するというわけにはいきません」。1個は9~11㎏。それを丁寧に1個ずつ収穫していく。年配の生産者では苦労する姿もあるようだが「重たい分、見返りも良い」と意欲は高い。ただ、夏場の作業では無理は禁物。特に近年の夏場の気温は記録づくしの暑さ。「体が第一です。睡眠をしっかりとって飲み過ぎないようにして、疲れて寝込まないように努力するしかありません。作業時間を朝早くにずらすとか、昼休みを長く取ったりなどして、熱中症や脱水症状にならないようにしています。それでも、危ないと思ったらすぐに退避です」。

シーズン始めに出荷されるハウスのすいか
成育中のすいか

やれるだけのことをして、後は天候の平穏を願うだけ

過酷な栽培条件だが、高い品質を守るために手は抜けない。そのためには厳しい品質チェックも欠かせない。「出荷前になると農協では週1ぐらいで目揃えなどの勉強会をしています」。地域の生産者それぞれが、尾花沢すいかのブランドを守るという意識が強く、生産者が外観と音感による果肉割れ等のチェックをしたあと、共同選果施設に送られ、機械と目視による検査を行い、糖度、実の詰まり、水分の加減を全てクリアしたものだけが市場に出荷されていく。すいかは尾花沢の自慢であり、生産者のプライドを体現する。地域ではすいかの生産技術を競うコンテストも行われ、25㎏を超えるものが優勝した大きさを競う部門や、大山さんが2位となった、味や見た目を競う部門があり、互いに地域で切磋琢磨することで、より良いものがつくられていく。

 そんなブランドすいかをつくりたいと、地域外の、東京、神奈川、遠くは和歌山などから移住し、生産者となる者もいるとのことで、地域の新たな活力になりそうだ。

 ただ、生産者の高い意欲とは別に、異常気象への対応が生産課題としてあり、より深刻化していけば、生産コストの増加や生産量の減少などにも繋がり、地域農業の存続を脅かす。特にすいかづくりは天気次第の場面も多く、「毎年、無事に収穫できればという思いが強いです」。地域では高齢化が進み、パートさんなどの人手も不足気味。限られた労力で通常の生産から異常気象への対策、被害を受けた場合の対応までこなしていかなければならない。今の所、「つくればつくっただけ収入になるのでやりがいはありますが、手が回らなくて、なかなか生産を増やせないのが現状です。毎日がいっぱい、いっぱいで、夢を見ている暇はありません。楽しくお酒が飲めればそれで十分」。生産現場の実際として、多くの人が頷くに違いない。毎日、目の前にある“やるべきことをやる”だけ。そして、農業が続いていく。今年も尾花沢では、すいかを出荷する時期がもうすぐやってくる。今のところ天気を操ることはできないわけで、できるだけのことをして、後はただ不測の事態が起きないようにと、うまくいくようにと祈るしかない。美味しいすいかを食べられる夏が、これからも続くことを願う。

ブランドすいかが地域の活力になる
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