利益がなければ集落の農地は守れない! ブランド農産物“さぬきのめざめ”をネット販売し、地域活性化 取材先:香川県高松市 農事組合法人諏訪

アグリソリューション

  総務省が発表した2020年5月の家計消費状況調査によると、2人以上世帯での消費支出は前年同月比16.2%減と、新型コロナウイルス感染症の影響で落ち込んだが、消費支出の内訳を見てみると、ネットショッピングを利用した購入が50.5%と初めて5割を突破した。項目別では食品が前年同月比81.5%増と大きな伸びを示している。

  コロナという特別の状況下ではあるが、農家にとっても有望な販路の一つとして大きな魅力を持っている。ただネットに出品したからといって、必ずしも売れるわけではないし、農作業以外の仕事も新たに発生するわけで、越えなければならないハードルは幾つもある。農業の持続を探るためネット販売に活路を見いだそうとする生産者に話を聞いた。(記事内の数値・状況は2020年8月現在)

ブランドアスパラガス“さぬきのめざめ”

水稲の収益だけでは集落の農地を守れない

 香川県高松市で集落営農を営む農事組合法人諏訪を訪ねた。同法人では、香川県オリジナルのブランドアスパラガス“さぬきのめざめ”のネット販売を開始した。「ちょうど今がアスパラガスの夏芽のピークですよ」。そう語るのは、生産者の井上修一さん(64歳)。他にも代表理事の岩崎義廣さん(85歳)、理事の福田義数さん(69歳)、農産物の販売サイトを運営し、同法人のネット販売のサポートをしているアグリパートナー合同会社代表の山中誠さん(37歳)から話を聞いた。

 農事組合法人諏訪は構成員が7名。耕地面積は土地利用型をメインにしながらも4.68haの小規模法人。作付け内容は、水稲が3.71haで讃岐のブランド米“おいでまい”を主力とし、これに加えて早場米の“あきさかり”も生産。麦類が2.85haで、讃岐うどんの原材料となる小麦の“さぬきの夢2009”とはだか麦、野菜がブロッコリー40a、アスパラガス“さぬきのめざめ”8a。

 元々、諏訪西営農組合として活動してきたが、“集落の農地は集落で守る”、“次世代に継承できる組織を作る”という2つのビジョンを実現するためには法人化が有効と考え、2010年に組合員8名で農事組合法人諏訪となり、水稲3haで営農を開始した。「しかし、集落内での作付け拡大が困難な状況で、水稲だけでは収益の向上が見込めませんでした。そこで、麦や園芸品目の導入をはじめました」。2013年から、地域での生産量が多いブロッコリーの作付けを開始。また元々この地域は湿地帯で土壌条件には恵まれていないことからフキの栽培が行われてきたが、2008年から代表理事の岩崎さんがアスパラガス“さぬきのめざめ”の生産に取り組みはじめ、2015年からは法人としての作付けを開始した。

左から井上さん、山中さん、岩崎さん、福田さん
ブランドアスパラガス“さぬきのめざめ”

差別化できる農産物として“さぬきのめざめ”に取り組む

 香川県は面積が小さく、県としての生産量はどうしても少なくなる。そのため、産地間競争に打ち勝つためには出荷量ではなく、如何に差別化できる農産物を展開するかであるとし、香川県農業試験場では県オリジナルの品種育成を進めてきた。その一つが、2005年に品種登録されたアスパラガス“さぬきのめざめ”だ。「“さぬきのめざめ”は、生長しても穂先が開きにくく、非常に背が高くなり、一晩で15㎝くらい伸びます。それと、紫色の色素アントシアンが少ないので見た目がきれいです」。また味に関しても甘みが強く根元まで柔らかい。他の作物としっかり差別化できるブランド野菜となっている。

 「アスパラガスは、春芽と夏芽があり、春芽の収穫は2月の末から始まり、夏芽は10月の中旬に終わります」。秋の収穫が終わると葉を落とす。春になると、地中の球根に溜まった養分で芽が伸び、それが春芽となる。春芽の収穫が終われば、芽を伸ばして立茎作業を行い、立茎した株の光合成によって夏芽が芽吹く。「春芽の収穫は約45日ほどですが、急激に伸び、甘くて太いものが、非常に多く収穫できます」。その中でも長さが50㎝のクラスとなるものがあり、特別な“さぬきのめざめ”として予約販売を行っている。

 しかしその生長の良さは負担にもなる。「ブロッコリーの収穫は4期に分けて、1期あたり7回程の収穫で終了しますが、アスパラガスは毎日収獲しないとどんどん伸びてしまいます。この労力が一番大変ですね」。冬場の収穫となるブロッコリーに比べると、作業環境は恵まれ、収穫物も軽量だが、収穫に追われる日々となり、休みがないのはつらい。また、アスパラガスは苗から収穫できるまでに3年程の時間がかかる。「投資をしてから回収するまでの期間が長く、導入するのが難しい作物です。そのあたりがアスパラガスの難しいところです」。

 諏訪では様々な作物を栽培しながらの導入で、収益がでるようになるまで待つことができ、複合経営の強みを示した。また法人として計画的な投資も進め、昨年は、新しいアスパラガスのパイプハウス4棟を新設した。あわせて高松市の農業ICTシステム導入活用事業を利用して、栽培環境モニタリングシステムを導入。“さぬきのめざめ”の収量、品質の向上と作業の効率化を進めている。

ICTセンサユニット
土壌の水分量を計測

インターネット販売への取り組み

儲けることをしっかり考える集落営農に

 農事組合法人諏訪では、水稲と麦、ブロッコリーは全てJAに出荷しているが、アスパラガスに関しては、JAの他にインターネット販売を始めとした直販への取り組みを開始した。「インターネット販売として、昨年から“こだわり農家直送便”で、今年から“ぐるなびの食伯楽”でも販売しています」。その他、飲食店へ直接販売し、収穫期間中はJAの直販店で毎日販売している。また、料理学校などへの販売もはじめた。積極的に新たな販路を広げているが、その目的は、「今まで私達は、農産物をつくるだけの農事組合法人でした。その中で長年やってきて一番の課題は、儲からないということでした。なんとかこの現状を変えていきたい。この取り組みがその第一歩です」。

 そこで最初に考えたことがインターネットを活用することだった。「自分たちでホームページを立ち上げて、ネット販売をやってみようと思いました。しかし、私たちにはノウハウがありません」。そこでホームページ作成をサポートしてくれるところがないだろうかと調べていたところ、「農家さんのホームページ作成を手伝います、自分たちも販売します、そんなうたい文句が出ているホームページを見つけました」。井上さんはそのホームページに書いてある内容に対して、疑問点や率直な意見を質問状にして投げかけた。「質問状に対して、誠実にきっちりとした返事が返ってきました。その対応から、この会社に我々の事業を手伝ってもらおうと決めました。それがアグリパートナー合同会社さんです」。ホームページ作成の打ち合わせをする中で、同社自らが“こだわり農家直送便”という通販サイトを立ち上げる話になり、これに参画することとなった。販売する商品はブロッコリーも候補だったが、ブランド力を考えアスパラガス“さぬきのめざめ”1本に決め、昨年からインターネット販売への取り組みがスタートした。

50㎝クラスの“さぬきのめざめ”
1本1本丁寧に収穫
ガスバーナで土壌の雑菌繁殖を抑える

ネットで売ればどんどん売れるというわけではないが、明日の希望

 しかし、ネット販売をはじめたからと言って、すぐに期待通りの結果が出るわけではない。「インターネットで販売をすれば、どーんと売り上げが上がると思っていました。でも一年目の注文件数はたったの15件でした」。また、ネット販売を行うことで新たな仕事も増えてくる。「注文が入ると、その都度の収穫と出荷作業が発生します。そのため、発送用の袋や専用箱を用意しなければなりません。クール便で送るための宅配業者の選定も行いました」。今課題になっているのは、「出荷ごとに宅配業者へ持ち込む作業です。出荷量が少なく、法人契約ができていません。しかし、今年はこの調子で注文が増えていけば法人契約も可能になりそうです」。宅配業者による集荷が可能となれば、負担も少なくなる。

 ネット販売初年度は期待していたほどの成果とは成らなかった。それでも、「我々としては最高の物を出すことを心がけています。お客様が食べて、これは良いと思ってもらえればリピーターになっていただけると思っています」。昨年1度購入した人が、今年になってすでに4〜5回購入しているという例も出てきている。「市場に流通しているものは、収穫して1週間ほどかかりますが、ネットでの注文は、今日収穫したものが明日手元に着きます」。鮮度もネット販売の大きな魅力だ。

 今年のネット販売の注文件数は、すでに昨年の倍を超えている。“最高の物を届ける”という思いがインターネットを通して、着実に消費者へと伝わり、“さぬきのめざめ”の魅力が少しずつ広がっているようだ。

今年5月に植え付けられた“さぬきのめざめ”
立茎作業後のハウス内

つくって売る農家へ意識を変革

 アグリパートナー代表の山中さんは、「農産物のネット販売はこれから伸びていくと思いますが、商品を差別化できないと売れる農家と売れない農家の差が顕著になってくると思います」と、これからは、ネット販売において消費者に選ばれる違いを如何につくるかが重要であるとしている。また井上さんも、「農産物を出品するだけの通販サイトはいくらでもありますが、私たちが今そこに出品しても埋没するだけだと思っています」と話す。今、始まったばかりの“こだわり農家直送便”のブラッシュアップと共に進んでいく姿勢が窺われた。それとあわせて、ソーシャルメディアを活用した情報発信で消費者に生産者を知ってもらう取り組みなど、ネット販売を拡大していく上での今後の課題も多い。このあたりの取り組みも積極的に行っていかなければならない。

 「新たな販路として、最初はネットだけに頼ろうと思っていました。しかしネット販売に取り組み始めて私たちの考えは少し変わってきました」。それまでJAへの出荷であれば、規格品は全量さばくことができていた。しかし、ネット販売では、自分たちで価格を決めることが出来るかわりに、売れ残りのリスクもある。その中で、さらに収益を上げるためには、“さぬきのめざめ”のブランド力を活かして、自分たちの力で新たな販路の開拓をしていかなければと営業活動を始め、規格外品も含めた料理学校への販売を行い、また、別の直売所での販売も検討している。

 「農産物をつくるのが農家だと思ってきましたが、それだけではなく、営業も含んで、より高く売ろうという意識が出てきました。その分時間は取られますが売上を上げよう、儲けを得ようと変わってきました。そのために様々な販売ルートを探し始めています」。自分たちでつくった農産物を、自分たちで値段を決めて売る。これからの農家の当たり前の姿へ、ネット販売の取り組みが背中を押した。また、自分たちで直接販売してわかったことがあると言う。「お客さんの美味しかったという声です。それを聞くと励みになります」。このこともつくって売る農家へと意識が変わった一因かもしれない。

 今後の展開を聞くと、「地域農業を守り、次世代に繋ぐためにも“さぬきのめざめ”で収益を上げていく」と、代表理事の岩崎さんが力強く答えた。ネットの活用で売る農家へと意識を変革した同法人の次のステップが始まっている。

新設されたパイプハウス4棟
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