ソーラーシェアリングとは、太陽光を農業生産にも発電にも同時に利用していくもので、一つの農地から農業収入と売電収入の両方を得ることができる。「営農型太陽光発電」とも呼ばれ、単位あたりの農地が保有する収益力を最大限引き出していこうとする取り組みだ。利益の上がる農業を実現していくための一つの選択肢となる。
またカーボンニーユトラルを目指す趨勢のなかにあって、再生可能エネルギーの生産に貢献することができ社会的意義は大きい。持続可能な世界を築こうとするSDGsの取り組みと重なる。とはいえ、従来からの方法はそんな簡単には変わらない。まとまった設備投資が必要であり、作物への影響も気に掛かる。そのハードルを越えるために何が必要なのか。ソーラーシェアリングを導入した生産者を訪ね、その実際を聞いた。(記事中の状況・数値は2021年10月現在)
みかんと一緒に電気をつくる
日本有数の立地条件有田で、温州みかんや不知火、ハッサクを栽培
和歌山県中部に位置する有田川町は、県内において柑橘類の主要な産地として知られている。「この場所はみかん栽培に適しています。日本有数の立地条件だと思います」。そう語るのは三枝孝裕さん(45歳)。同町でみかん栽培を営んでいる三孝農園の代表を務めている。同町の東西には高野山を源とした有田川が流れ、山間の地形を南北に分断し、川の北側には南向きの斜面が形成されている。土壌は秩父古生層が広がり、適度な礫を含んでみかん栽培には適する。また、気候も1年を通して温暖で雨量が少なく晴天が多い。「立地条件に勝る技術無しです。良いみかんは、お天道様がつくってくれます」。さらに、同農園がつくっているのはみかんだけではない。“お天道様”で電気もつくっているのだ。
三孝農園は3.7haで温州みかんをメインに、中晩柑の不知火やハッサクを栽培している。労働力は三枝さん夫妻と両親、年間雇用の従業員が1名。農繁期には10名ほどのアルバイトがここに加わる。栽培において気を遣っている技術的な要素は「最も重要だと考えているのが剪定です。剪定技術をしっかり身に付けないと良いみかんはつくれません」。栽培に適した立地条件に高い剪定技術を加え、高品質なみかん生産が行われている。生産されたみかんは、東京を中心とした高級スーパーや卸売会社に直接販売され、取引先からの評価も高い。
みかん産地は雨が少なく晴れが多く太陽光発電に好条件
このみかんと共に園地でつくられているのが、ソーラーシェアリングによる電気だ。再生可能エネルギーは、その導入拡大とそれに伴う新たな事業振興を目的として、国が2012年に“電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(FIT法)”をスタートさせた。太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスの再生可能エネルギー源を用いて発電された電気を、国が定める価格で一定期間電気事業者が買い取ることを義務付ける制度だ。
この制度を知った三枝さんは、「この時、私達が家庭で使用する電気代が20円/kWhに対して、再生可能エネルギーの売電価格が40円/kWhでした。買うより売る方が高い。こんなことは普通に考えるとありません。これは儲かると思いました」。しかも太陽光発電の場合では、契約時の買い取り価格が20年間保証される。さらに、みかん産地は雨が少なく晴れている日が多い。太陽光発電に取り組むには好条件だ。早速農業用倉庫の屋根にソーラーパネルを設置した。
翌年の2013年には農水省が、“支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取り扱いについて”を示したことで、一定の条件を満たせば、農地に支柱を立てて上部空間に太陽光パネルを設置し、太陽光を農業生産と発電とで共有する“営農型太陽光発電”が制度上可能となった。「そこで農地を有効活用して、売電による収益を増やそうと考え、新たにソーラーパネルの設置を考えました」。しかし、農地を使っての太陽光発電は、農業用倉庫の屋根を使うようにはいかなかった。
ソーラーシェアリングを行うには、その農地で栽培される作物の収量が、周辺地域の平均から8割以上を確保することが許可申請の条件となっている。また、営農計画書も必要となる。FIT法により20年間の固定価格買取を受けることから、ソーラーシェアリングは、設置者が営農を継続することを前提としている。そのため最低でも20年間の営農が必要となり、取り組み時の年齢によっては事業継承などの人材育成や長期の事業計画を立てておく必要がある。
県内初のソーラーシェアリング
農地として機能するため平均反収の8割以上の収穫が必要
「ソーラーシェアリングの申請には大変苦労しました」。三枝さんが和歌山県で最初のソーラーシェアリング申請者となったが、「前例が無く、私の申請可否が今後の基準となりました」。そのため慎重な審査となり申請がそのまま通ることはなかった。特に営農が適切に継続するかが問われた。ソーラーシェアリングが行われてもみかんの収穫量が地域の平均単収と比較して、その8割以上の確保が必要となる。それをしっかりと示す必要があった。
「農家の感覚としては、雑木林の隣で半日以上日陰になっている畑でも普通にみかんはできるので大丈夫だと考えていました」。ソーラーシェアリングでパネルを上に載せても面積当たり2〜3割の遮光率とのことで、半日日陰になっているみかん畑よりも太陽光をたくさん受けることになる。また、「栽培している温州みかんの品種である、ゆら早生と中晩柑の不知火は乾燥を好まない品種なので、日陰によって乾燥を防ぐ効果もあると思いました」。しかし、作り手の感覚では大丈夫だと思っていても、何故大丈夫なのか、そのエビデンスが求められる。そこで、「町役場や果樹試験所の指導員の方に協力してもらいながら、ソーラーパネル下でもみかんの生育や収量に影響がないことを証明していきました」。ソーラーシェアリングの取り組みに理解を示す人々の協力を得ながら申請書類を作成し、県からの許可を受けた。
こうして2014年、ソーラーパネルの設置しやすさを考慮して比較的樹高が低いゆら早生10aの園地に、県内初となるソーラーシェアリングの1号機を設置した。続いて10aのハウス栽培を行っていた不知火の園地に2号機を設置。支柱の高さは1号機が3.5〜4m、2号機が5〜6mとなった。遮光率は両機とも20〜30%で、1号機は1枚240Wの発電ができるパネルを211枚使用し、発電出力は49.5kW、発電電力は約6万kWh/年となった。2号機もほぼ同様の仕様と発電機能。「ビニールハウスを建てるノウハウを持っていましたので、支柱は自分で立て、ソーラーパネルの設置だけを業者にお願いしました」。
作物への影響はなく、夏場の作業が楽になった
ソーラーシェアリングのための設置に掛かった費用は、ソーラーパネルなどのモジュールも含めて、一施設1600〜1700万円になった。2号機の設置は、すでにあったハウスの資材を再利用したため、200万円ほどは安くなったが、両機合わせて約3000万円。ランニングコストに関しては、月々の電気代が若干掛かる程度だが、火災保険の加入費が年間6〜7万円、償却資産税が20年間で約200万ほど発生する。
ソーラーシェアリングを実施するためには、農地転用の申請や、高額な設備投資があり、超えなければならないハードルが幾つかある。今では一部の自治体で、ソーラーシェアリング導入に対する申請サポートや補助金制度が設けられているが、三枝さんが取り組みを始めた時にはまだ未整備。「それでも売電収入があれば、しっかり利益が生み出せる計算でした」。土地を担保にして設備投資のためのローンを組み、10年で返済するプランを立てた。
ソーラーシェアリングで作られた電気は蓄電せず、パワーコンディショナーで家庭用電力に変換され、そのまま送電される形で売電される。1号機、2号機合わせての売電収入は年間440〜480万円。設備のトラブルや自然災害によって不測の事態も起こりえるが、それらが無いかぎりFIT法により、契約時の売電価格が20年間変わらないので、この収入を安定して得ることができる。「当初想定していた1施設で200万円の売電収入は、今まで目立ったトラブルも無く計画通りに進んでいます」。来年にはソーラーシェアリングをスタートさせてから8年目となり、初期投資で掛かった費用を売電により回収したことになる。
また、ソーラーシェアリング下でのみかん栽培については、「収量、品質面において何ら問題はありません」。品質面ではソーラーパネルにより適度な日陰ができることで、日焼け果が減少し好影響にも繋がっている部分がある。作業面ではパネルの支柱が農作業の支障になるということもなく、日陰ができたことで夏場の作業が楽になったという改善面もある。作物を栽培する上で、今のところさしたる問題は発生していない。
次につくるのは持続力
ソーラーシェアリングによる安定した売電収入を人件費に充てる
「これは儲かる」と感じて取り組み始めたソーラーシェアリングは、その思惑通りに、農業収入と安定した売電収入をもたらした。うまく計画通りに進んだわけだが、新しいことにはリスクがつきもので、それを承知で決断し前に進んだのは、「1年半後に就農予定している息子の給料に、売電収入を充てていきたいと考えたからです」。果樹栽培では後継者が新規就農したとしてもその人件費に見合う売り上げを規模拡大で得ることは難しい。果樹に売り物となる実が付くまでには数年が必要になるし、就農者自身が給料に見合う実力を付けるまでにも時間が掛かる。
「新規就農してすぐに品質の高いものを生産することはできません。剪定技術など、経験して学ぶ時間が必要です。また規模拡大を植えるところから始めると収益が上がるまで何年か掛かります」。果樹栽培で、売り上げに貢献できる働き手となるには、稲作や野菜作より多くの時間が掛かる。その間の人件費をどうやって捻出していくか。果樹農家の世代交代において大きな課題になっている。そこで三枝さんが出した一つの方策が、ソーラーシェアリングによる安定した売電収入を人件費に充てるという方法だ。後継者育成を経済的にサポートすることになる。
ここ有田川町でも、みかん農家を継ぐ人は年々少なくなっており、畑を手放す人が増えている。その中にあって、「次の世代に農業を残すことを一番意識しています。農業を持続させるための役割として、ソーラーシェアリングは大きな力です」。三枝さんの取り組みに賛同して、ソーラーシェアリングに取り組む新たなみかん農家も現れてきている。「売電収入を農業持続のための副収入として、本業の農業にしっかりと取り組み、農作物をつくり続けていきたいと思っています」。
ソーラーシェアリングは再生可能エネルギーの生成でSDGsに貢献し、同時に地域農業の持続にも大きな力となっている。ただFIT法の買い取り価格は毎年減少しており、その動向でモデルの有効性も変わってくる。農地の可能性を広げることが世界の持続にも繋がるわけで、新時代を視野に入れた果断な方策が企図されることを強く願う。